第27話 甘王笑住の心配事(3)
笑住が床に就く直前に始まった菜花との通話から数分。
『それで、いっちゃんたらね――』
笑住は、菜花が次に告げる言葉を心の中で重ねる。
(きのこ組の手人形見ていたら、キノコが食べたくなった)
『――とか言うんだよ?』
笑住はこの話を姉の苺から数分前に聞いたばかりである。
『私たちにおかしいって総突っ込みされて、ちょっとムッとした顔で「水族館を回った最後に魚食べたくなるでしょう?」って。もう、おかしくて可愛くて』
クスクスと喉を転がす菜花に笑住は『お姉ちゃんらしいじゃん』と、欠伸を噛み殺しながら答えた。
『応募するキノコ料理の方向性も見えたーとかで、今度いっちゃんがね――』
ダラダラと話が継続される、そんな雰囲気を察した笑住は菜花へ切り込む。
『なの姉、凄くご機嫌だね。何か特別いいことあった?』
一呼吸の間が空いた後、落ち着いた声が笑住の耳に届く。
『大船駅に着いてからの帰り道でいっちゃんに聞いてみたの』
『なんて?』
『私から例えば……苦い事実を告げられたらどうするって』
笑住はほぼ閉じていた瞼を開き『お姉ちゃんはなんて?』と訊いた。
『言わないことで菜花ちゃんが苦しいなら、美味しく調理するから教えてほしいって』
『……なの姉は、お姉ちゃんの返事を聞いてどう思ったの?』
『やっぱり好きだなぁって』
『それだけ?』
『ううん、まさか! 笑住には相談に乗ってもらったから先に伝えておくね』
『……じゃ、聞いておく』
『ありがとう、笑住』
普段よりも異様に明るく感じる菜花の話し口に、笑住は妙な胸騒ぎを覚えた。
『私、打ち明ける。いっちゃんはきっと許してくれると思う。ううん、違う。いっちゃんのことだから「ごめんね」って、何も悪くないのに謝ってくれる』
『だろうね。知らずとはいえ、新作野菜料理ができる度に試食させて感想を聞いていたわけだし。野菜嫌いのなの姉に』
『笑住の言葉に棘がある気がするけど……私が悪いんだし仕方ないか』
『お姉ちゃんに、マイルールと反する行為をさせていたわけだし言うでしょ』
『うん、後悔している。だから打ち明ける。そして――――』
笑住はイヤホンを押さえ集中する。
『――私はいっちゃんに好きって告白する』
『聞き違いか何か? その流れで告白って……正気とは思えないけど?』
苺とする通話と違い、菜花との通話は顔を合わせない携帯越しでの会話。
だというのに、笑住は顰め面で携帯画面を睨んだ。
『正気だよ。正気だから告白するの』
『なの姉、それは――』
(――上手くいくわけがない)
口から出掛かった言葉を笑住はすんでのところで飲み込んだ。
代わりに笑住は思い留まるように説得しようするが、その前に菜花が『おやすみ』と言って通話を切ってしまう。
笑住は苺と菜花と三人で行った、菜の花畑で撮った写真を待ち受けに設定した画面を意味もなく眺め、小さな溜め息を漏らした。
(――拗れすぎでしょ)
笑住は「やっぱり面倒になった……」と吐き出し、それから『萌ちゃん?』と通話を始めた。




