第22話 私はキノコ料理を考えたい(3)
「「ごちそうさまでした」」
お昼休み。
お腹が満たされ、糖も補給されたことで睡魔に襲われる。
いつも率先して会話してくれる菜花ちゃんも、今日に限っては少し控えめであった。
きっと私と同じなのだろう。
「菜花ちゃん今日は? この後、部活の集まりとかあるの?」
「え? あ、うん。放課後は部活だよ」
つまりお昼休みはフリーってことかな。
「じゃあさ、ちょっと眠気覚ましに図書室まで歩かない?」
「いっちゃん眠いの? 私のお膝つかう?」
菜花ちゃんのお膝は天使の枕と呼んでも過言じゃないくらい最高の寝心地だけど、それだと増々眠くなっちゃうな。というか確実に寝る。
だからね、ポンポンとお膝を叩いて私を堕落の道へと誘わないで?
「キノコ料理の参考に料理本探したいんだよね」
夕飯やお弁当の参考にはなったけど、レシピ応募と考えたらもう一捻り欲しい。
そこまで真剣にならなくてもいいんだけど、今度はキノコを愛すると決めたからね。
膝枕を断られたことで、菜花ちゃんは残念そうに唇を尖らせた。
「ちぇー。けど、特別棟の方はあまり見ていなかったし、図書室からでも富士山が眺えるみたいだから気分転換にはいいかもね――」
菜花ちゃんの同意も得られたため、私たちは移動を開始する。
教室を出てすぐに私は「ん――」と腕や背中を伸ばす。
それから「校内デートもアリかなぁ」と独り言を漏らす菜花ちゃんへ、さっき気になったことを「そういえば」と振ってみる。
「今日の菜花ちゃんのお弁当は、なんだかお野菜多かったよね?」
「え!? そうかな? そんなことないよ!」
「ほうれん草のお浸しでしょう? 他にほうれん草とベーコン炒めとか、ほうれん草入りの玉子焼き、ほうれん草とシラスの和え物まであったと思うけど?」
肉食な菜花ちゃんの普段のお弁当は、野菜はお浸しが一品入るくらいだけだ。
それなのに今日は見事に逆転。
肉類はベーコンしか入っていなくて、野菜メインのお弁当だった。
というか、ほうれん草ばかりだ……もしかして――
菜花ちゃんは超人的パワーでも発揮したいのだろうか?
とまあ、そんなおかしな疑問は置いておいて、とにかく珍しいなと見ていた。
菜花ちゃんは「えっと」「そうだなぁ」と目の中に波を作り、けれど最後は諦めたかのように私と視線を重ねる。
「いっちゃん、金曜にメロンを売った時に言っていたでしょう?」
いろいろと心当たりがあり過ぎるけど、どのことだろう? 私は首を傾げた。
「野菜オタクになれば透視能力が身に付くって」
まさかの超人的能力であっていた。
でも、その時の話ってアボカドだよね、アボカドの見分け方の話についてだよね?
「人も野菜も可能性で満ち溢れているよね」
「そうなの! 無限大なの!! だからね、私もいっちゃんを覗き……じゃなかった。その素晴らしい能力が欲しくなったの!」
ふ、と邪な気配を感じたものの、今より野菜に興味を持ってくれたなら歓迎すべきことかな。
そう捉えた私が「余り無茶はしないでね」と返事を戻すと、菜花ちゃんはほっと息を漏らした。
図書室がある特別棟に繋がる連絡通路の入り口へ出ると、木之香ちゃんと白菜ちゃんの二人とばったり遭遇する。
四人で挨拶を交わしてすぐに「お二人も図書室へ?」木之香ちゃんが柔和に微笑む。
「うん、食後の眠気覚ましと調べものついでに図書室からの景色も観られたらなって。木之香ちゃんたちも図書室?」
「よく分かんないけど、ひさ高の文芸部って絵も描くらしいのよね。だからシロナと木之香はその資料探し」
「へぇ、文芸部なのに美術部みたいに絵とか描くんだ」
「秋の文化祭へ向け、今年は絵本を制作するらしく、その準備のためのものです」
何の気なしに戻した返事に、木之香ちゃんがしっかりした理由を説明してくれた。
「え、もう?」と驚いた菜花ちゃん同様に私も目を丸くしたが、絵本作りは年単位の長いスパンが掛かるほど大変だと、木之香ちゃんが補足してくれる。
「冬葉も文芸部でしょ? それなのに文化祭で絵本を作るって知らなかったの?」
「シロナは木之香がどうしてもって言うから入っただけで、帰宅部的な文芸部だから。そういう春乃こそ、演劇部で何するか当然知ってるんでしょうね?」
仲良く息ぴったりに睨み合う二人。菜花ちゃんは腕を組むことで胸を揺らし、白菜ちゃんは「ふん」とツインテールを揺らす。
本当に仲良しさんだ。
ん? 白菜ちゃんから菜花ちゃんと同じ香りが……昨日早速買いに行ったのかな。
「お二人は放っておいて、私たちは向かいましょうか。苺さん」
「ふふ、いいね。一緒に行こっ、木之香ちゃん!」
「いっちゃん待って!」「待ちなさい木之香!」
慌てて追い掛けてくる二人を見て、私と木之香ちゃんは笑みを深くした。
四人で向かうはいいが、広がり廊下を占拠するわけにもいかない。
そのため組み合わせは二人一組で私は木之香ちゃんと並んで歩く。
「苺さんにお礼をしたいと考えていたので、お会いできてちょうど良かったです」
「? 私、木之香ちゃんにお礼してもらうようなことしたかな?」
「顧問に須木先生を譲ってくれたではありませんか」
私は割り込んだのを取り止めただけだからお礼も何もないと思う。
「気にしないで」と伝えてみても木之香ちゃんは「このままでは気分が優れないんです」と引いてくれない。
お礼に何かお返しがしたい、そう言う木之香ちゃんの気持ちを利用するなら野菜部に入ってほしい。
けど、それだと楽しい部活動にならない気がする。ただ数合わせで入部してもらうのが最終的な目的じゃないし、私はみんなでワイワイできた方が嬉しい。
「何もないでしょうか?」
んー、何かないだろうか……そう言えば、キノコ組のマイタケちゃんはお洒落さんで手先も器用だったよね。確か――
「――木之香ちゃんは、手先が器用だったりする?」
「どちらかと聞かれたら器用な方であるかと思います」
「ふんふん。――お裁縫は?」
「基礎は問題ないかと。シロちゃんに着せたい衣服、衣装を自作したりもしますので」
何それ凄い。
私も菜花ちゃんに着させたい服とかあるから、本腰入れて覚えようかな。
「もし、よければ……野菜のキャラをモチーフにした手人形作りを手伝ってほしいんだけど、どうかな?」
野菜を好まない木之香ちゃんに頼むのは……と悩んだけど。
「それくらいでしたら、喜んでお手伝いさせていただきます。文芸部は水曜木曜がお休みですので、今週でも来週でも苺さんの都合のいい時にお声掛け下さい」
私が喜ぶよりも先に、話を聞いていた二人が後ろから会話に混ざってくる。
「秋山さん、私もいっちゃんに着てほしい服があるんだけど……」
「木之香は教えるのも上手だから安心なさい! 苺も春乃も、二人まとめて教えてあげるわよ!」
「私より先にシロちゃんが返答してどうするんです」
「え? だって……木之香が頼られて嬉しくなっちゃったんだもん!」
「ふふ、私の代わりに誇らしげに胸を張ってくれてありがとう。シロちゃん」
白菜ちゃんは恥ずかしくなったのか、消え入りそうな声で「……どういたしまして」と返事した。
「シロちゃんはいつ見ても可愛いですね」
「可愛いよ、冬葉」
「だね! すっごく可愛いよ白菜ちゃん!」
両サイドのツインテールをギュッと掴み「うー……」と、顔を隠す白菜ちゃんを見た私たち三人が、顔を綻ばせたところで特別棟に到着した。




