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野菜オタクの苺ちゃんは手に負えない~お好きなお野菜はなんですか?~  作者: 山吹祥


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第21話 私はキノコ料理を考えたい(2)

 お肉屋さんにお魚屋さん、八百屋さん。和洋中さまざまな飲食店。

 多くのお店が並び、昼間は活気や喧噪に溢れる商店街。

 鎌倉のアメ横と呼ぶ人もいる『大船仲通り商店街』は、朝の登校する時間帯はさすがにひっそりしたものだ。


 毎朝、大船栃尾青果市場の前で菜花なのかちゃんと待ち合わせし、眠る商店街を経由して大船駅へと向かう。時間にすると徒歩で七、八分程の距離だ。


 私も菜花ちゃんも朝は得意な方で、今日も「おはよう」爽やかに挨拶を交わす。それから歩き出してすぐに、私は今朝の出来事を菜花ちゃんへ話した。


 すると何故か菜花ちゃんは「むぅ、いいなぁ」と頬を膨らませた。


「? 羨むところあったかな?」


 あの後、私、頭のおかしい女子高生とか散々からかわれたんだよ?


「あったよー、私もいっちゃん劇場観たかったなぁって」

「別にいつでも見せてあげるけど、菜花ちゃんも采萌ともえさんに毒キノコ食べたのか? とか言われちゃうよ?」

「苦しむのは嫌だけど、いっちゃんと心中するのは私別に嫌じゃないよ?」


 昨日の帰り際、元気ないように感じていたけど、今日も菜花ちゃんは安定に菜花ちゃんだから、ちょっと安心した。


「苦しいのは嫌だよね」

「うん、いっちゃんは笑顔が似合うから」

「そういう菜花ちゃんもね」

「んへへへ、もぉ、いっちゃんたら!」


 コツンと可愛らしい体当たりをかました菜花ちゃんは、その流れで腕を組んでくる。


「でもやっぱり、劇場はしばらくお預けかな」

「!? なんで? どうして!?」

「んー、まだふたキノコ足りないのね? でもせっかくなら全部揃えたくて。采萌さんに話聞くと美木みきさん転職したばかりで結構忙しいみたいなんだよね」

「そっかぁ……手人形パペットは美木さんに教わっていたもんね」


 そこまで難しくはないから頑張れば一人でも作れるけど、美木さんがいてくれた方が細部まで拘って作れるからなぁ。


「あとは、エリンギくんとホクトくんだけなんだけどさ」

「……男の子だけどいいの?」

「あ、うん。そこはほら? 野菜だからいいかなって」

「最近はTS……トランスセクシャル、いわゆる男が女に転生する物語も流行っていたりするよ? 先輩たちが、劇に組み入れてみようかって話もしていたし」

「そうなの? 最近はいろいろ進んでいるんだね――」


 幼い私をからかいバカにした男子から受けた影響で、同年代の男子に苦手意識を持ってはいるけど、そもそも野菜は関係ないし、何より公式キャラの性別を好き勝手に変更したら怒られそうだもんね。


 そんな言い訳を自分にしつつ、話題を変えるついでに菜花ちゃんにも聞いてみる。


「菜花ちゃんは、何かこれ食べたいってキノコ料理あったりする?」

「この間もらってたレシピ募集企画の?」

「うん、その参考にしたいなぁって」

「キノコ料理かぁ……そもそもキノコって野菜なの? 菌類は植物じゃないよね?」

「とてもい~~い、質問だよ! 菜花ちゃんっ!!」

「あ、うん。駅着いたし、ほどほどにね? いっちゃん」

「任せて! 時短で説明するね!」


 通勤通学その他さまざまな目的で人がごった返している大船駅JR線南改札口から、定期券をピッとタッチして駅の中へ進入する。それから私は、


【農林水産省】の野菜生産出荷統計によると、きのこは特用林産物に分類される。また、食糧需給表によると、きのこは野菜の記載なしということ。


【厚生労働省】の国民健康・栄養調査によると、きのこは野菜とは別分類されること。


【総務省】の家計調査によると、きのこ類・いも類は『生鮮野菜』に分類されること。


 これらを熱中しつつも視野は広く、早足で進む歩行者とぶつからないよう注意を払い、菜花ちゃんに熱弁した。


 そして、ホームに到着した東海道本線沼津行電車へ乗り込む。


「野菜の定義ってね、こんな感じに各省バラバラで結構曖昧で、簡単に言うと要は食用となる植物の総称が野菜に分類されるみたいなの」

「うんうん、えっと、つまりキノコは?」


 駆け足するサラリーマンの姿が見えたため、私は話を中断して場所を奥へとずらす。


「食べられるキノコは野菜で、食べられないキノコはそうじゃないってことで区別していいと思う!」

「そっかー。ありがとう、いっちゃん。教えてくれて」

「話は脱線しちゃうんだけど、キノコは喋るって研究結果もあってね? 実は人間みたいにキノコ同士でコミュニケーションを取っているって説もあるんだよ! すごくない!?」

「いっちゃん、それは後で聞かせて。今は、ね? 静かにしようね。じゃないと――」


 菜花ちゃんは立てた人差し指で私の唇をぴとっと押さえた。

 目が覚めた、とでも言うのだろうか。

 冷静になったことで、浴びる視線に私は気付いた。


 私を見る乗客たちの目は、今朝見た采萌さんほどじゃないにしても、何か不審者を見るような訝しんだ光を帯びているように感じたのだ。


「――また毒キノコを食べたって思われちゃうよ?」


 本日二度目。


 猛毒を吐かれ、私が眉を八の字にさせたところで電車が発車した。


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