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83.尻を見ても憂鬱だった

 アグリッパの町、南広場。楡の木の下。

 一段高い正面中央に南面して椅子三つ。左に七つ、右に机と椅子。

 その対面に、木の方に向いた椅子席多数。

 これには既に市民が着座し始めている、

 これ等を取り巻くように、背丈ほどの戸板を立てて仮設の囲いが出来ている。


 やがて満座に近くなり、市長が正面に着席する。

「国王陛下の罰令権委譲に基づき、当市行政官の長が当臨時法廷に於ける裁判長を勤めます。右陪席、本日は開廷するのに適切な日ですか?」

「はい、裁判長閣下。いかなる祝祭日にも安息日にも当たらず、本事件発生からの直近日です」

「左陪席に着座はありますか?」

「ございません。若し国王陛下が来臨なさいました場合に裁判長閣下が席を譲って着座なさいます為に左は常に空席でございます」

「参審人は全て着座しましたか?」

「七人全員着座いたしました」

「では、訴訟当事者の中途退席を含め、いかなる審理の妨害も禁止致します」


「閣下はその命令を正義と宣言なさいますか」

「宣言します。誰に対しても正しきを許し、不正を禁じます」

 裁判長が掌を上にして参審人に向けてかざす『問い』のポーズ。

 七人の参審人が人差し指と中指を立てて裁判長を指差し、賛成の意を表す。


 右陪席が問う。

「告知者リュクレス・レーカの後見人ムントフリッツ・ロウ、代言人を指定しますか?」

「はい、市民ルベルト・ブルムを選任します」

「受理します」

「本事件の現行犯として逮捕された市民セスト・ヒュッカー以下ちょんプンクトプンクト、代言人を指定しますか?」

「市民ペー・・」

  「おい、『以下ちょんプンクトプンクト』ってなんだよっ!」と野次。

「以下省略の意味です静粛に」

  「ぶー! 情報隠匿やめろー」と野次。

「隠匿しません文書公開します静粛に・・・では市民ぺーを代言人に・・」

「ペーター・ライアー!」と被告セスト。

「受理します」

  「ライアー ライアー ライアー」と野次。

 ペーター・ライアー挙手する。


「市民ぺーの発言を許可します」

「尊き裁判長閣下、ただいま代言人を拝命致しました市民ペーです。原告側証人の定足数について疑義を申し立てます」

  「ライアー ライアー ライアー」と野次。

 法廷、紛糾する。


                ◇ ◇

 ファルコーネ城、朝。

 アンヌマリーの部屋。

 足を忍ばせてラリサが帰って来る。


「あんたっ!」

「あ・アンヌマリー起きてた」

「起きてたーじゃないわよ。一晩じゅう何処に居たのっ!」

「ぽっ」

「赧くなってんじゃないわよっ。婚約者んとこでしょ!」


「将来のこととか語り明かしちゃったのよ。もちろん従者のエセルレッド君や女童ドミニクちゃんも一緒」

「ドミニクちゃんって、昨日宮廷風の挨拶してた? あの子、きっと将来美人になるわね・・どうでもいいけど」

「うふふのふ」

「あっ! それ・・指輪!」

「頂戴しました」

「いいけど・・それ、あんたの目玉くらい無い?」


「確かに大きいかしら」

「普段は首からぶる下げて胸の無駄肉にでも挟んどけば? あんたの売りの働き者イメージに反するわよ」

「・・そうね。普段は天鵞絨の袋にでも包んで首に掛けとこうかしら」

「上手くリボンで飾ったら首飾りにも使えそうな感じっ」


「アンヌマリーも、そのうちマリオさんが何か持って来んじゃないの?」

「なにそれ『マリオさん』って親しげに」


 ・・効いてる効いてる。


                ◇ ◇

 同城内、厩舎。

 三人、藁の中で寝ている。

 三人でグラッパの小瓶一本だから、深酒ではない。


「いや、厩舎って幾ら騒いでもいいからいいよな」

 ヨーリックのとっつぁんも薄目開けている。

「この厩舎の一等いいとこにラパンルージュ号ってぇ名馬が居てな。そいつが毎朝お催促ねだ頻繁うるさいんだよ人間の女抱かせろって」

とっつぁん、そいつ魔物と違うのか?」

「・・(磨墨号さんの同族とかか? ちょっと品下ってるけど)」

「そいつが言うにゃ、惚れた女主人が『最初は人間と済ますから順番を待て』って言ったって」


 ・・なんか似た話を聞いた気がするが、ニュアンスだいぶ違うぞ。


                ◇ ◇

 アグリッパ、法廷。


「右陪席」と裁判長。

「警邏隊の現状検分報告に依れば『犯行現場は密室。被害者の叫喚告知を耳にして現場に踏み込んだ自由人が二名のみ。他は躊躇して良俗義務を果たさず』とのことです」

「尊き裁判長閣下、ただいまお聞きのとおり、本件は現行犯逮捕の要件を満たしておりません。保釈を求めます」

 市民ぺーの言葉に参審人が挙手。

「尊き裁判長閣下、被告側代言人の主張も一理あるが、重大犯罪に推定無罪原則の適用は軽々に過ぎる」

 他のすべての参審人、二本指を差して賛意を表明する。


 発言した参審人、続ける。

「現場に急行した警邏隊員は、被告人七名全て密室内におり他者の出入りが皆無の状況を報告しておりますか?」

「右陪席、現状検分報告の詳細を述べてください」と裁判長。

「警邏隊が踏み込んだ時点で、密室内に被告セスト以下計七名、全裸で剣を握った状態で昏倒しており、他には叫喚告知者リュクレス・レーカ本人と、告知者の母親マルティナ・レーカー他一名のみです。警邏隊員は、当該現場で暴行被害のあった状況証拠を確認しており、本人はその時点の服装で出廷しています」


「告知者リュクレス・レーカ。加害者を示して下さい」と裁判長。

 彼女、被告人七名を順に指差す。


                ◇ ◇

 レッド、部屋に帰る。皆、寝ている。

 アリシアに至ってはレッドのベッドで尻を出して寝ている。

「このやろ」

 ・・まぁ、この度で幾度となく目にした格好なので今更驚く事も無いが、こいつ嫁に行けるのだろうか。まぁ本人その気がないとも明言していたが。

「あれ・・こいつの兄さん、なんか言ってたな・・」


「アリ坊、何度掛けてやっても蹴っちゃうんだよ」と、ブリン薄目で。

「俺とかも十年賢者だから気にもしないが、若い子には刺激なんじゃね?」

 ヒンツ、顎でフィン少年の寝床を指す。

「そう言やぁ、あいつも大人だったな」


 レッド、アリシアの下半身を上掛けで覆う。


                ◇ ◇

 法廷。

 参審人、挙手する。

「告知者の母親他一名の挙動について、警邏隊員による現場での事情聴取の結果を公開いただけますか?」

「右陪席」と裁判長。

「聴取報告書によれば、マルティナ・レーカは未明の自宅で拉致被害に遭った娘を奪還するために市内の探索者ズーカギルドを訪れ、同組合員のヨハンネス・ドーを伴って市内の要所を巡回中に叫喚を聞きつけた、とのこと。両名が被告人の一人セスト・ヒュッカーが所有する別宅へと踏み込んだところ乱闘となり、ヨハンネス・ドーが制圧した、とのことです」


 別の参審人、挙手する。

「マルティナ・レーカは拉致被害に遭った時の加害者を示せますか?」

「覆面をした複数男性が未明に侵入したと供述しています」


「マルティナ・レーカは或る程度予測してセスト・ヒュッカーの別宅付近に居たのではありませんか?」

「代言人ペーは挙手の上で発言して下さい。代言人ルベルト、回答できますか?」

「尊き裁判長閣下よ、推測しか述べることが出来ません。セスト・ヒュッカー他が日頃よりリュクレス・レーカの意思を無視して再三接触を図っていた事実は証人を集めることが出来ると考えます」

「代言人ペー、発言ですか?」

「はい、拉致事件の存在自体も第三者の証言が得られない、という理解で宜しいのでしょうか?」


「右陪席」

「はい、裁判長閣下。マルティナ・レーカが警邏隊に通報せず自力救済を優先した事実が、それを証明しているものと思われます」

「代言人ペー、発言ですか?」

「はい、被告人セスト・ヒュッカー他が一方的な襲撃を受けた、という反対事実は証明こそ出来ませんが、本事件の訴え自体に対する合理的疑いを形成する可能性は認められませんか?」


 市民ぺーの反撃。



続きは明日UPします。

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