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286回用蘊蓄

 蘊蓄回です。


《286回本文 1》

その所為で、村の地主階級フレクハフティンが殆ど絶滅した。

《本文ここまで》


Pfleghafte :中世語の綴りが "phlegehaft" で賃料支払義務者 zinspflichtigのこと。語尾-in.はpl。賃料zinsの支払いというが3huven(約50ha)未満の土地所有権のある者なので『地租』支払義務と表記した。


 先に述べた封建制の序列;盾序列ヘールシルト3/4/5位『諸侯Vorsten/自由領主vrie herrin/参審自由人schepphinbare luite』は人命金wergeldeが18Pfundであるのに対し、この地主階級フレクハフティン及びbirgeldenは人命金wergeldeが10Pfundと半分ほどでヒアタスが大きい。

 つまり同じ自由人だが参審自由人schepphinbare luiteとは大きな格差がある。

(注:-bareはborn、 luiteはpeople。つまり参審自由人階級が参審人schepphenや騎士を輩出する)


 封建制の序列とは別の自由人vrie lute三階弟『参審自由人/Pfleghafte ,birgelde/lantsesin』の第二位だが、参審自由人との格差が大きく、また下位のlantsesinとは自己所有地の有無という、これもまた大きな格差がある。最大で約50ha未満という可成りの土地を所有するので、経済的格差は大きいだろう。


 ただしこの土地は、第三者の承認なく相続できる一歩で、売却処分等が出来ないという制限がある。

 この点で、騎士以上の身分者が持つ世襲地あいげんとは根本的に違い、封地に近い性格の混在が認められる。これは、人命金の格差も鑑みると、恐らく嘗ての主人から解放された際に拝領した土地であった可能性が高い。案ずるに、功績等で自由を得た人々に零落した戦士階級が一部合流した階層であるまいか。



《286回本文 2》

女が『マン』でおかしいとお思いの諸兄、女も当然『マン』なのだ。

《本文ここまで》

 語尾-manを伴う複合語は性別を問わないという話で、cyninges mægdenman(王の侍女)やWifmanなどを挙げたが、その他ありそうな職業名をいくつか記して置く。


 scol-man=scholar

 wig-man=warrior (wig=strife,war,battle)

 spyre-mann=tracker,investigator (scout,look out)

 burh-man=citizen(borough,burg=walled town)



《286回本文 3》

 だが、それならば『成りなりて成り余りたる所』ある人が只の"Mann"であるのは可訝しい気もする。

《本文ここまで》


「爾伊邪那岐命詔、我身者、成成而成余処一処在。故以此吾身成余処」『記(上)』

 伊邪那岐の『岐』を男性を表す語とするのは宣長。



《286回本文 4》

「ですよねー。あはは・・本名アハティウス。殉教者聖アハティウス様のお名前を頂いた者ですけど、ご存じでした?」

「知らなかったわ」

《本文ここまで》


 St. Achatiusはハドリアヌス帝時代の殉教者。カッパドキア出身のローマ軍兵士で、ビザンティウムで護民官ビビアヌスの尋問を受け、トラキア総督フラキウスにより311年殉教した。

 ローマ人の名には数詞がよく使われ、クイントゥス・キケロ(五郎)やデキムス・ブルータス(十郎)など有名人も多いが、アハティウスは違うだろう。"Acht"はゲルマン語だし綴りも違う。そもそも彼はトルコ生まれだ。

 追放刑 "Acht "も『八』とは違い、古い綴りは(ahd. ahda)である。


 追放刑 Acht を受けた者は共同体から追われて、多くは『森の放浪者Waldgänger』となるか、リンチで殺された。


 つまり『村八分』とは『八』が似ているだけの別物である。



《286回本文 5》

「では復習しましょう。代言人の一番の利点は?」

「法廷での発言が、そのまま証拠に採用されない事です」

《本文ここまで》


 昔の裁判は『神に誓って、やってません』と誓うだけで許される『図々しい者勝ち』の要素があった。よく言えば日頃の信用が物を言うムラ社会だが、それゆえに『言い間違い』に厳しかった。

 供述の揺れや心理的に動揺する姿が不利な証拠として即時採用されるため本人訴訟は不利で、代言人が必須であった。



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