255回用蘊蓄
体調を崩し、更新サボりました。
明日は復活すると思いま・・
蘊蓄回です。
《255回本文》
「不倫男は死刑が普通ですが、古い古い慣習法では高額な人命金を払って不倫妻を買い取らせる罰金刑が存在しました。女性が子供を産む奴隷のように扱われていた蛮族時代の話です」
《本文ここまで》
エセルバート法典第31条 自由民が他の自由民の妻と同衾したときは、その女の人命金を支払ってその女を買い取らなければならない。かつ、その加害者自身の金銭によって被害者の二度目の妻を買い求め、被害者の家に連れて行かなければならない。
3 1 . Gif friman wið fries mannes wif geligeþ , his wergelde abicge, ⁊ oðer wif his agenum scætte begete ⁊ ðæm oðrum æt ham gebrenge.
(ケント国王エセルベルト;a.d.560頃〜616)
間男は、他人の妻を殺害したのと同じ金額を支払い、尚且つ新しい妻を『買って返す』義務を負う。
人命金 wergeldeとは簡単に言えば、殺された被害者一族に報復で殺されない為に『手打ち』に支払う賠償金である。
この時代、男性の人命金 wergeldは百シリングscillingaで、女性は半額ディスカウント。それでも当時の価格で牝牛五十頭に相当する。一般人なら、まず人生詰む。
『買って』は語弊があるが、当然スーパでも通販でも売っていない、女の親権者に結納金を支払い後見人の権利を買うのである。言い換えれば、女の現在または将来所有する財産の管理権(並びに収益権)を親から買って来て弁償する。浮気したお古を責任もって引き取って、実家の財産が同等レベルの新妻を再調達するのだ。
婚姻は二段階ある。(一)親族に結納を支払って後見人の地位を譲られる。(二)翌朝、貞操の代償に、女に生涯利用できる資産(不動産の場合は生涯にわたる使用権)を贈る。この使用権は、のちに夫が破産した場合でも債権者が侵害出来ない権利である。
ちなみに同法第1 0条 王のメイドと同衾した者は、50 シリングの損害賠償金を支払わなければならない。
1 0 . Gif man wið cyninges mægdenman geligeþ , L scillinga gebete .
自由人の妻は、国王のメイドcyninges mægdenmanと同額である。
"mægdenman"と男みたいな表記だが、女性である。mægdeはメイドなので、なぜメイドが最高級なのか疑問に思う諸兄もおられようが、当時のメイドは酒宴では貴人にお酌するホステス的な立場だった模様である。彼女は王の保護権mundbyrdの下にあるので、この権利を侵害すると賠償を求められる。罰金でないことに注意。親が娘の後見人muntwaltであるのと同じ構造である。
同法第1 1 条 その女性が粉を挽く þeowaの女であるときは、2 5 シリングを支払わなければならない。第3の階級の女であるときは1 2 シリングとする。
1 1 . Gif hio grindende þeowa sio, XXV scillinga gebete . Sio þridde XII scillingas .
同法第1 2 条王のまかない婦であるときは、2 0 シリングを支払わなけれ
ばならない
1 2 . Cyninges fedesl XX scillinga forgelde .
このfedeslが後世の言葉でfeederに相当するので配膳係をする女性の給仕。肉体の力で製粉作業している女中より格下らしい。
国王専属メイド(兼ホステス)50>台所女中25>女給20>下女12で四倍くらいの身分格差があるようだ。
お酒のおかわりを持って来る仕事cup-bearerが一番楽そうな気がするのだが、それ以外のもっと大変な仕事も受け持っているのだろう。。




