186回用蘊蓄
蘊蓄回です。
<186本文>
「時節は大事ですね。嘗て離婚訴訟で亡んだ国もありますし」
「あら、そんなの不要ですわ。一代置いて襲位など珍しくもありません」
<本文ここまで>
具体的にはフランク王国ロレーヌのロタール2世Leutheri Filiusの破滅をいう。
二十歳で王位を継ぐとほぼ同時に、彼には愛人との間に子が生まれており、父の遺志による結婚を解消しようと教皇権力相手に十四年間苦闘したのち、病死する。
王妃トイトベルガは嫌気がさしたか離婚に同意するが、息子に相続権は認められず、国はロタール2世の伯父たちに分割されて亡ぶ。
この事件は歴史的・政治的事件であると同時に、神判ordealの解釈についても重要な示唆である。
離婚のために王妃の不倫を誣告した王に対し、王妃は灼鉄神判に勝利して無罪を勝ち取る。しかし王は大司教二人を買収して神判を覆し、離婚と再婚を強行する。これに対し教皇は二人の大司教を罷免し、王の愛人を破門して十数年に及ぶ泥沼が続く。
さきの回では決闘裁判が神ならぬ人の営為であるとするランゴバルド法の姿勢を示したが、他の神判もその実態は多数派工作の結果に過ぎず、むしろ明白な結果の出る決闘の方が実定法と馴染みが良いことが分かる。
また、上記会話では嫡出性に関する観点が男女で異なっている点も伏線だが、今はあまり述べない。




