182回用蘊蓄
本編は夕刻にUPします。
蘊蓄回です
<182回本文>
「代表戦士による一騎打ちは全面紛争を少しでも穏やかに収拾するための伝統的な作法だ。それ自体に抗議したのだろうか? 一族みんなで突撃したかったのか? わからん。今さら聞けもしない
<本文ここまで>
決闘裁判は、イングランドではノルマン・コンクェスト以降にしか現れないという。
同じスカンジナヴィア起源でもノルマン人には強く現れ、サクソン人の間では廃れていたことになる。
決闘それ自体ホルムガンガ(古ノルド語:「決闘場(?)へ行く」)というスカンジナヴィアの習慣が源流らしいが、結局のところ自分の名誉を自力救済するのは自由人の権利であって、これを制限することは如何なる権力にとっても簡単ではなかったようだ。
それでも血族単位での全面対決を一騎打ち=二人での戦いへと縮小する努力は成功していた。
裁判官が立ち会う民間の法廷決闘は史料によく残っているが、騎士どうしの代表戦士の戦いは文学作品の方が多いようだ。
古いものでは "La Chanson de Roland" のCount Ganelonが裁かれるシーンがあるが、歴史マニアR.Wagnerの "Lohengrin"も能く古俗を活写していると言われる。
国王が命じる。
So tretet vor, zu drei für jeden Kämpfer,
決闘者一人につき三人進みでて
und messet wohl den Ring zum Streite ab!
闘争のリングを確定せよ。
国王が祈る。
Mein Herr und Gott, nun ruf ich dich,
わが主なる神よ、いま私はあなたを呼びます。
Durch Schwertes Sieg ein Urteil sprich,
剣の勝利を通じて、
das Trug und Wahrheit klar erweist!
嘘と真実を明らかにする判決を語り!
Des Reinen Arm gib Heldenkraft,
けがれなき武器に英雄の力を与え、
des Falschen Stärke sei erschlafft!
偽りの力を挫きたまえ!
So hilf uns, Gott, zu dieser Frist,
神よ、このきわに
weil unsre Weisheit Einfalt ist!
蒙昧なる我らにお導きを!
軍令官
Nun höret mich und achtet wohl:
心して聞け:
Den Kampf hier keiner stören soll!
なんぴとも是の戦いを妨げる勿れ!
Dem Hage bleibet abgewandt,
垣の中に立ち入る勿れ!
denn wer nicht wahrt des Friedens Recht,
平和法に違うものは
der Freie büss' es mit der Hand,
自由人ならば手首を以て賠償し
mit seinem Haupte büss' es der Knecht!
属民ならば首で償うのだ。
映画だと、往年の名画『エル・シド』や『アイヴァンホウ』の決闘シーンがようつべで観られる。
<182回本文>
「どちらかの男がひとり死ぬだけで領土紛争が起こらない。略奪も誘拐も、放火も無い。百歩譲って譬え決闘が犯罪だとしても、どんな犯罪だって戦争よりは益では無いのか?」
「ああ、そりゃ益です益です」
・・口喧嘩で解決すりゃ、更に益です」
<本文ここまで>
ここはフェーデのことを言っている。良い訳語がないので、仮に不倶戴天決闘と漢字を当てた。宣戦の作法以外はなんでもありの戦争そのものである。
時代とともに、敵の一族でも不関与宣言をした者には手を出すなとか、無関係の第三者に迷惑をかけたら賠償せよとか規制が加わっていく。




