167回用蘊蓄
蘊蓄回です
<167回本文>
ダミヤンの立場は『伯爵家に何か事が有ったなら自分の家来を連れて駆け付ける封臣』であるから本来は常時近侍する立場でもないのだが、もう毎日この下屋敷に詰めている。
<本文ここまで>
爵位の制度は中国や日本と甚だ異なるのに語彙が同じでわかりにくい。
『諸侯』ー『領主』ー『騎士』はいわゆる盾序列の3位ー4位ー5位に当たる。
『諸侯』:大公、公爵、侯爵、一部の伯爵など
『領主』:伯爵、男爵など
『騎士』:参審人など
本来は『殿様』と『侍』のような2段階だったが国王から『御旗』を賜ると一段階上の『諸侯』になる3段階になった。
『諸侯』=フュルスト=ファーストで『一番』さんのこと。プリンキパトゥス=ミスターNo.1に由来する。オクタヴィアヌスさんね。
つまり『諸侯』=『諸侯』は同じもので言語の違いである。
『公爵』=『公爵』も言語の違い。ヘルツォクには大族長の、デュカには統率者のニュアンスがある。ヴェネツィアの統領もムソリー二の称号も、このドゥーチェの系統である。ちなみに胸肉1ポンド=3千ダカットも同語源。値付けはシャイロックさん。
同じ盾序列が封建的な君臣関係になることはない。
したがって、作中のウスター伯爵(城主)とグロッス男爵(城代家老)は封建的な君臣関係ではなく、同じバッテンベルク家という血族の中の上下関係(先代当主の跡取りに先代の弟が従う関係)となっている。
国王から『御旗』を賜っているガルデリ伯爵と嶺南の男爵たちは、封建的な君臣関係でもあり、血族の氏上に従う関係でもある。
ここで登場する家臣ダミヤンとポルトリアス伯の関係は伯爵と騎士の封建的君臣関係に見えるが、個人的に遠慮のない間柄にも見える。
一般に封主と封臣の関係は土地の分与に基づく契約関係で、年間に一定日数の従軍義務があるが絶対的従属は無い。土地の賜与も代替わりのごとに更新が必要である。
二人の君主に仕えてその二人が戦争になったときは、一方には従軍、一方には戦費提供という形で両立させたりしているが、戦争で活躍しすぎて泥沼化した実例もあったようだ。
本作中にも勝手に逐電した家臣が登場している。ただし家系本来の世襲領もあるのだから、主君に愛想が尽きてもそうそう出奔はすまい。
アグリッパ探索者ギルドの金庫長は、主君に愛想尽かして出奔した元騎士のようだが。




