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146.女三人姦しくて憂鬱だった

 アグリッパ冒険者ギルド。


「クルトの奴、駄目かも知れんな」

「ギルマス、そんな・・」

「哀れなクルト、その魔法は解けない。ヴィーナスと呼ばれる最強最悪の悪魔だ。なんぴとも、その美しい爪から逃れられない・・」


「何でこんなことに・・」

「とにかく看病に行ったばあちゃんには厳重に口止めだ!」

「祓魔師さんを呼びますか?」

「いや、そこから教会に知れたらコトだ」


「瀉血しましょう。抜きまくりです」

「死ぬぞ、それ」


                ◇ ◇

 アグリッパ、最高級宿のペントハウス。副支配人がやって来る。


「フェンリス卿に御客人です。ブラーク男爵さまのお使いと仰っておられます」

「お通しして」


「クリスちゃん。お客様来るから、裸でふらふら出て来ちゃ駄目だよ」

「裸じゃないもん。ぱんつスブリガ穿いてるもん」

「いつもより小さくないか?」

「デル・カザーラ風だよー」


 まぁ部屋はたくさん有るので問題ない。


「やぁヴォルフくん、どうしたの?」

「廃嫡公子ヒーディッグ一味の数名が嶺南候の人相書を所持していました。やはり例の『襲撃未遂事件』に加担していたと思われます」

明公とのに『遭遇できなかった』組ね。少ししか長生き出来なかったなぁ」

「彼らのアジトを発見して財貨ともども資料を多数押収しました。『追捕狼藉』を行なって勢力拡大を図っていたことが判明しました。こちらはカンタルヴァン家の使者ファルケ殿」


「初めまして。ルポ・フェンリスです。従兄弟のクラウスが伯爵殿にお目に掛かる約束だけしてアグリッパで面倒事に巻き込まれて仕舞ったので、遅滞を申し訳なく思ってをります。


「ご尊顔を拝する機会を得て恐縮でございます」

 カンタルヴァン家の使者、動作もこちこちしている。

「僕は、武辺者の従兄弟と違って教会育ち、公文書館の司書として公共サービスに従事してたりという経歴なんで、どうぞフランクに接して下さいね」


「カンタルヴァン伯爵家は、廃嫡公子の一味が河川ルートの通商破壊を始めようと画策していたとの見解で被在いらっしゃいます」

 ヴォルフが助け舟を出す。

「成る程。今回の策動は潰えたもののアヴィグノ過激派は、我らがブラーク男爵の媒介でカンタルヴァン伯に接近することに危機感を覚えている様ですね」


「そして此方こちらはポルトリアス伯爵家家臣ディエーゴ・ダ・コロンバ殿」


「あら、夜も更けたのに皆様お揃いですのね」

 ・・ほっ、ちゃんと服着てくれた。

 フェンリス卿、大仰な仕草で胸を撫で下ろしたい気分。


「こい・・こちらはファルコーネ城主クリスティーナ殿。ここだけの話、エルテス大司教座下の耳目です。実は僕の従妹ですけど」


 ディエーゴさらに冷や汗。

 ・・こうやって近親者でがっちり固めて来るあたり『南部人ひとりと喧嘩したら百人で攻めて来る』って噂の正体なんだろうな。同じ家中かちうでナニ派だ誰派だ言って争ってる俺らが戦争で負けるわけだ。


「ポルトリアス伯の家臣として申し上げたき事は、故大公妃の縁者として廃公子がアグリッパ亡命中に金銭的援助をしていた事は事実。高原州ホホラント)で再起すると仰るので金銭を御用立てしたのも事実。しかし公子が悪事を働くのを手助けする・・という意図は主家には御座らなんだ、という真意です」

 ・・自分としては、かなり熱弁だったと思う。


「もちろん、アヴィグノ過激派がどれほど家中かちうに入り込んでいるか・・それは皆目分かりませぬ」

 ・・ああ。言っちゃった。自分は身の可愛さに主家を売ったのだろうか? 

 否! 否だ!

「しかし、頭から敵とは! 何卒! 何卒! 看做さないで下さりませ」


 ディエーゴ平伏する、


                ◇ ◇

 スカンビウム。

 男爵、マッティ=エルザ組と未だ飲んでいて、だいぶ出来上がっている。


高原州ホホラント)は変わるぞよ」

 純血の在来系で領主はブラーク男爵ただひとり。メーザ卿は復権活動中でフクスロックは騎士身分さえ諦める一歩手前。マッティとエルザは本人もう町人の積もりである。

 諦められちゃ、自分臥薪嘗胆してきた甲斐がない。

 ドラゴ・ブラークは男でござる!

 などと怪気炎を上げちゃっている。


 幸か不幸か、貴族階級というのは戦士を掛け合わせて人工的に作った人間闘犬のようなものだ。冒険者ギルドなんかで名を挙げる強者とか、そうした人間闘犬族の末裔すへな可能性が強い。

 それらを集めると何代か前に通婚していたりとか、割と狭い世界だったりする。

 だからエルザの援軍要請に二つ返事で手勢率いて駆付けたりする訳だが、今回はフェンリス卿が縁談絡みで来訪していなかったら危なかった。


 いや、ブラーク城の精兵が五十人程度相手に遅れを取ると言うのではなく、単に速度の問題である。

 まこと縁とは異なものである。さすがは伝説の名剣士ハーケンの弟子。華麗かつ神速であった。

 オクタヴィアンに持たせた品々もまた、異なる縁を結ぶかも知れない。


 因みに卿、あまり教えるのは上手そうで無いが・・。アリストテルの神学は実に緻密に語る人なのに、剣の道を語ると『ちょちょちょん・つつつん』である。


                ◇ ◇

 メッツァナの夜道。

 ひとり別行動のオクタヴィアン、港湾からさほど遠くない商業地区の外周辺りを探している。


「『ユンクフレヤ通商』・・ここか」

 書類と照らし合わす。

「間違い無いな・・こんばんわ」ノックする。


「借金取りじゃあ無さそうだ。開けてやんな」

「あらまあ! お姉さんと知り合って最早もう同性に走ろうかと思ったけど、やっぱり美少年も良いわね」

「ちょいと! あんた亭主亡くして何日目だい!」

「ちょうどひでって来た頃合いなのよ」


「お二人、だいぶ出来上がってますね」

「まぁまぁお入りよ。あんたも一杯やろう」

 この二人、忙しく働いていない時は連日飲んだくれている。


「リベカさんですね。この世は涙の谷ですが、友情が足許を照らします」

「まぁ固いこと言わないで・・って、あらぁ! 固いわ。出来立て未亡人ってのはそそるかしら」

 オクタヴィアンの股間を遠慮なく触りまくる酔っぱらい若後家、確かに触りなば落ちなんの美女で色っぽい。


「それじゃ三人でやっちまおうか」

「ちょちょっと待って下さい。書類が先!」

 何枚か見せる。

「ありゃりゃ! 署名済みの手形じゃないか! あっぶない」

「賊のアジトを手入れしたら出て来るわ出てくるわ」


「盗賊ども、なんで換金しなかったんだい」

「商業のこと碌に知らない素人だったんですよ。金貨・宝石・年貢の麦束、そんなもんしきゃ知らない侍崩れで人殺しだけ上手い。はいこれ、印章!」

「なんでそんな連中が?」

「ウルカンタで関税取って儲けてる伯爵家に嫌がらせ始める気だったでしょって」


「ありがたい。伏し拝んじまうよ。あんたは?」

「賊を討伐したブラーク男爵の手の者です。


「イヤありがたい、ありがたい。男爵様はおぢさんだろうから、代わりに手の者のアレを伏し拝もう。ありがたや、ありがたや」


 始まる。


                ◇ ◇

 数刻のち。


「いやぁ、あんた女の子だったとは吃驚。まぁ何方どっちでも良いけど」

「ええ、吃驚です。これって本物以上ですもの。元人妻が言うんだから間違いないですわ」

「ふっ。死んだ亭主しか知らんくせに」

「実は、もう娼館に行って仕事探そうと思ったら何処も若い娘ばっかりで挫折感にどっぷり塗れてあそこの酒場に行き着いたんですよね」

「いや、お姉さん素敵ですよ。えっちだし」


「でもこれ、ほんと良く出来てるよな」

「欠点は、僕があんまり気持ちよくない事です」

「それって、ここんとこが擦れるように改良できないかしら?」

「ちょっと貸してみな。あたしが着けてみる」

 なんだか技術者の研究会っぽくなる。


「これ、元々が迫真の男装小道具だったもんで、外見や感触が優先で実用面が少し疎かだったかも」

「いや、商品化いけるんじゃないか?」


 女たち、姦しい。




続きは明晩UPします。

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