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120.金欠で憂鬱だった

 アグリッパの町、冒険者あばんちゅりえギルド。

 ギルマスのマックス私室。

 強い火酒をあおって早めの寝床とこに就いたが、眠れない。


「考えてみりゃあ、寒い日に一杯引っ掛けてもうひと働きする用の酒だった。これで眠くならんのは当たり前だ。馬鹿か、俺は」


 ・・墓掘人の賃金は直ぐ判った。大した金額ではない。そこらの叩き大工とそう変わらない。これで日陰の世襲職じゃあ出奔して何処か遠国で冒険者ギルドの戸を叩いた方がいいぞ。・・あ、ちょっと稼ぎは減るかな。

 しかし処刑人はいい暮らししてた筈だ。


 探索者ズーカギルドの見積る金額を考えなかった訳じゃない。

 どうせ汚れ仕事は退役傭兵に回すだろうから高く付くとは思っていた。

 囚人十人程度づつ傭兵二、三人で連行して、往復三日くらいの先の荒れ地に行きって埋める・・とか工程を想うと、囚人ひとり頭二グルデンくらい取るだろうと考えてたらドンピシャだったので、納得してしまった。


 だが、それだけ予算が有るなら、経理に囚人の食費を差し止め食らったくらいでそう焦るだろうか。

 付き合いの長いクラインを疑いたくは無いが、一応裏は取っておこう。


 マックス、寝る。


                ◇ ◇

 嶺南ファルコーネ城。

 城壁の上をレッド、ディードリック卿と散策している。


「此の城はその昔に、一大勢力の牙城であったとの事。ファルコーネ家も男爵領を二つも三つも持つ大族とは仄聞致したれど、それでも持て余して居られる模様だ。二重の城壁は堅固で、余程の大軍で囲まぬと歯が立つまい」


「あっちこっち兜被ったカカシが立ってますけど」

「前の執事が大層締まり屋で、どうせ誰も攻めて来ぬからと領民の徴兵を廃止して蒼生たみを養生なされたのだ左右そうな」

「動乱の時代だったのに?」

「先代城主が政治力での駆け引きに長けた御仁だったとか」

「城壁の崩れてる所は?」

左様そう思って攻め込むと、石落としの仕掛けが有る袋小路へと誘い込まれる仕様で作ってあった」

「えぐっ」


「城自体、大軍を擁して良し。寡兵で籠って良し。見事に考えて作られて居る」

「いや兵法には暗くって」

「左様かな? 今は大軍で囲まれても手勢を繰り出して翻弄し返せるだけの人士が揃えて在る様に思えるが」

「俺たち偶然集まってませんか?」


「御城主の外遊中に、城代殿のみならず副伯夫人ヴィスコンテッサが構えて居られる。の御方だが只者でないぞ」

「小隊を率いられた所も、みずから干戈を振るわれた御姿も、拝見しましたよ。強くて吃驚」

「成る程、納得である」


 違う話題に振るレッド。

「クレアさんはエリツェの町ですか?」

「うむ。あれも役に立つ女なので一緒に仕官したが、此の際である。近く世帯でも持とうかと考えておる」

「そりゃあ素敵な話だ」

「貴殿も近いと聞いたぞ」

「ありゃ、エステル様ったら・・」

「吊り橋を一緒に渡った男女は仲良くるとはねてより聞いたが・・・ははは」


 レッド、ディードの笑い声を初めて聞く。


                ◇ ◇

 ゴブリナブール、宿屋『ゲンセーンカン』。


 ツアコン夫婦の泊まる部屋にノック。

 宿屋少女が、戸口から怖ず怖ずと顔を出す。

「あの・・」


「もしかして、うるさかった?」

「かなり」

 気不味きまづそうな顔のディア。夫のミュラ知らぬ顔。余所を見ているが恥ずかしいのかも知れない

「他のお客さんの部屋でも聞こえちゃってますぅ」


「あたし適齢期も終わりの終わりどん詰まりに亭主と出会ったもんでさ、ちょっとはしゃいじゃうってか・・」

「十五の小娘に言わんで欲しいであります」

「すいません」


 宿屋少女、去る。


 客、顔を出す。

「言ってくれた?」

「あい」

「明日どういう顔で挨拶しよう・・」

「何食わぬ顔が宜しいであります」

「それも、あれだなぁ」

「では目一杯からかうが吉」

「それで行くか」と一同。


「ところで、野郎どもが遊べるお店って、どこにある?」

「年端も行かぬ小娘に、なにをお聞きでありますか」

「イヤ娘さん立派な女将の風格あるもんで」


「なら明日の晩着くウルカンタには高級店しかありません。次のスカンビウムには此の町くらい見事に何も無し。隣り町が賑やかだと左様そう言うもんであります」

「つまりメッツァナまで我慢の息か」

「我慢が人生であります」


                ◇ ◇

 翌朝、アグリッパの探索者ズーカギルド。


「おはようテオ」

「お前、ひとん家の娘を何処いかどわかした」


「ちょっと借りたわ」

「また寸借詐欺か!」

ちゃんと返すわ今回は」


「どうやって使嗾した」

「うふふ『言うこと聞かないと貴女のママにっちゃうぞ』って脅したら一も二も無し。素直に言うこと聞いたわ」

「相変わらず箆棒ベラボーに非道いやつだな」

「ブラボーって言って。わたくしが着付師をやったら途轍も無い美女になったからパパは寄ってくる男に苦労してね」


 金庫長、暫く苦労の絶えぬ模様。


                ◇ ◇

 同町内、冒険者あばんちゅりえギルド。

 ギルマスのマックス目の下に隈。結局のところ輾転反側して睡眠が足りぬ。

 分厚い紳士録をひもといている。


「あら、徹夜?」と出勤してきたウルスラ。

「違う」

 不機嫌そう。

「市政参事ヘンリック・ボエル。こいつの息子の素行を洗いたい。誰か捷早すばやい奴は居るか?」

「直ぐ見繕いますわ。もう一人の参事さんは?」

「小言が口煩いだけの独居老人みたいだから後回しだ」


                ◇ ◇

 アグリッパ外郭、北門。

 入市審査に長蛇の列が出来ている。

 ぶつぶつ不平を囁く人々の声が渦巻いている。


 ぶつぶつ呟いている男の一人、囁き合う仲間が居ないので独り言で気味悪い。

「やはりゼンダの奴が何か仕損しくじったか」

 仮称『バラケッタ団』は正に包囲殲滅状態だった。だから彼は、ぱったり連絡が絶えた事までしか知らない。

 随分待たされる。

「武器持ち込みが制限されているのか」

 ゼンダ・ブルスの仕損しくじりが可成り致命的なものではないか、という疑念が沸々と湧き上がる。


「刃渡りの長い物と長柄武器が持込禁止か・・」

 武器買取屋が屋台を出している。

 家宝の剣を帯びている者など如何するんだ! ・・と思ったら、士分の者は刀剣持込可だった。


 それほどに厳格な出自調査がある訳ではなく、家紋はんとげまるの提示でいようだ。まぁ厳格に審査をしていたら何時いつ町に入れる事やら、だ。

 ようやく審査の順番が来る。家紋を提示できる者は審査が簡易化されていた。

 男、家紋を提示して入市する。


 その家紋をじっと見ていた者が居たことに、男は気付いていない。


                ◇ ◇

 市庁舎、いつもの場所にクライン局長が居る。


「マックスか・・」

「例の『処分』第一陣は、明日と決まったとさ。それと、尋問要員も警邏隊本部に行かせるって」

「尋問か。まだ頼んどらんのに先回りして来たか。気の利く奴らだな」

「頼む積もりだったのだろ?」


「使える証言者が増えたぶん彼方あちらの収入が減るから、切り出し兼ねてた。尋問係の傭兵、随分と優秀だそうだが」

「今回は、もっとソフトなのを派遣して来るそうだ。女だと」

「昨日の姉ちゃんかな」

「そこまでは知らん」


「ときに、御予算だが結構な総額になるな」

「ああ、捕り物のときにバックアップも頼んだし、予算けっこうギリギリだ。だがそれで完璧な一網打尽が出来た。実ぅ言や、あそこの最後の値引きで食い扶持にも回せるんだか、ここはキチっと財務に要求しとく」

「手入れに反対してた参事って、予算のことも考えてたのか?」

「ボエルの野郎か。彼奴は『なんでも反対』屋だ。一斉逮捕に反対、漸次処分にも反対。ったぁく、ひとに恨みでもあんのか!」


「そのヘンリック・ボエルなんだが、末の息子が処刑済み犯人どもと同世代なのは知ってたか?」

「な・・に?」

 クライン局長、少し考え込む。


「それ、調べられるか?」

「ああ、いいいとも」

「俺のポケットマネーで依頼する。もう公の予算が無いからな」


「あれ? じゃ・・毒親どもの裁判で調査に当ギルドうち使うって話は?

「すまん、金がない」」




続きは明日UPします。


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