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111回用蘊蓄

蘊蓄回です。

<本文>

「さて聖典に『嫁と姦淫してはならぬ』とあるのだと言って、結婚はしたが子供は作らなかった男。彼は正しい信仰の人でごじゃりましょうや?」

「はーい先生。妊娠中のえっちは姦淫でーす」

<本文ここまで>


元ネタはレビ書18:15です。

各種の訳を比較してみましょう。だいぶ違いがあります。


明治時代の舊約聖書

18:15汝の媳と淫するなかれ是は汝の息子の妻なれば汝これと淫する勿れ

昭和版

18:15 あなたの嫁を犯してはならない。彼女はあなたのむすこの妻であるから、これを犯してはならない。

Bible, King James Version:1611年刊行の英語版

[15] Thou shalt not uncover the nakedness of thy daughter in law: she is thy son's wife; thou shalt not uncover her nakedness.

ウルガタ聖書:中世のもの LIBER LEVITICUS

15 Turpitudinem nurus tuae non revelabis, quia uxor filii tui est, nec discooperies ignominiam eius.


この中で最も古い中世ラテン語版では「嫁の恥辱を露出するな」という文言で、"nurus"は息子の妻とも自分の花嫁とも取れる単語ですが、続く"uxor filii tui "でお前の息子の妻と言い換えているので間違う人はいません。

1611年版ジェームズ王欽定聖書では"thy daughter in law"とはっきり訳しています。「義理の娘の裸を晒すな」と言う訳になっています。これはマイルドに訳し過ぎています。

明治時代の和訳だと「汝の媳と淫するなかれ」と、息子の妻を意味する「媳」と書き、彼女と「淫する」行為を禁じています。

昭和の和訳では「嫁」と不明確になっていますが、文脈で明らかですね。禁止する行為は「犯す」ことです。

インセスト・タブーの禁止を説く文脈なので、「犯す」と訳す和訳は正解です。

中世には、女性の肌を見ることが交渉を持つことと同義だったのです。


これを自分の花嫁のことと間違うのは相当なウツケ者ですが、現実に書店に並んでいる古代史珍説には次の行を読んでない人が大変多いです。


本編は夕刻にUPします

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