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104.事後も憂鬱だった 

 嶺南ファルコーネ城、朝まだき。

 アンヌマリーと二等文官マリウス『お友達から』お付き合いすることになった。


「朝っぱらから甘ったるしいわ」

「赤くなっちゃって、見てても恥ずかしいですわね」

 アリシア嬢とラリサ嬢、二人を放置して足早に立ち去る。


 なんとか二人をくっ付けようと積極的に動いていたラリサ嬢だが、一抹の不安が胸をよぎる。

えいッ、アンヌマリーも自由市民権喪失の危機なんですもの。高所得で名家次男坊ハイスペック男相手に背中を押して、なんの気に病むことが有るでしょう!」

 ・・いや、後ろめたいから気に病んでいるんだけどね。ちょっと嫁が来そうもない甥御のことを某有力者様から頼まれたミッションなんだもの。ちょっとおもねっている自覚がある。


「それは僕も同意なんだけどな・・ひとつ気になる事が有るよ」

 二人、顔を見合わせる。

「取越し苦労なら良いのですが」

「当たってないことを祈っちゃうかな・・」


「マリオくん、おしりマニアからおっぱいマニアに『転向しただけ』じゃあ無いと良いんだけど」

「それ・・ですよね、心配は」


                ◇ ◇

 アグリッパの町、市庁の回廊の如くにオープンな場所。

 然るべき地位の老人が働き盛りくらいの裕福そうな市民から陳情でも受けている様に見える。

 日常の、よくある一場面のように思える。

 しかし言葉は老人の方がへりくだっていた。

「申し訳ございません」


「詰まるところ、『入市管理が緩すぎた』という一語に尽きるのです」

 言っていて『しまった。一語じゃなかった』と思うホラティウス司祭。

探索者ズーカギルドに間引かせて居たから良かったものの・・」

 そして『また虚言の罪を犯してしまいました』と心の中で懺悔する。

 あれは予期せぬ偶然だった。


「・・下手をしたら警邏隊の総数を上回る武装集団の潜伏を許して居たのですよ」

「まっこと申し訳ございません」

 鷹揚に頷く身振りのクルツ・ヴァルター局長、言葉は平身低頭。

「凶器準備集合に、法廷侮辱に、平和破壊に・・どれひとつ取っても極刑に値する罪状でしょう。いや、教会の者が口を出して良い事ではございませんが」


 教区裁判所の最高刑は破門であり、世俗裁判所の審理事項には原則ノータッチの筈である。聖職者としてでなくバイトの記録官という立場で民間行政にタッチする事もまま有るので、つい口が滑った。


「ほとんどが人権剥奪刑を受けた前科者どもと思われますが、なにせ奴らの人数が人数ですので」

 実務家気質のホラティウス司祭、「みぃんな簀巻きにして川に流しちゃえよ」と言いたくなるのを堪える。

 そしてまた心の中で『いけないこと考えちゃいました』と懺悔。


 地方へ行くと司法・行政執行機関が脆弱なので、被害者遺族に『仇討ち御免』の認可状だけ出して自分は何もしない自治体は多い。そういう施策の皺寄せは都市に来るのだ。

 地元に身の置き所が無くなった凶状持ちは都市部に流れ込む。


「抱えてしまった不良在庫をどうするか悩む前に、その商品の仕入れを止めるべきではないのですか?」

 聖職者というより商都の市民らしい例えで語ったりする。

「現在すでに囚人の詮議を外注で賄い、局の人員は不法滞在者の摘発に振り向けております」

「ですから、入口の管理強化が急務なのですよ」


 お叱りは続く。


                ◇ ◇

 ランベール城下の村。

 お城勤めの侍女が朝市に買い物に来ている。

 地元のおばちゃんが話し掛ける。

「あなた、お城に勤めてる子でしょ?」


 それは服装を見れば一目で分かる。

 良家の子女の服をずっと地味にしたようなデザインで、上着の袖に腕を通さずに腋下のスリットから手を出して、肌着の生形色きなりと上着の色のツートンはそれなりに洒落ていると思えなくもない。

 上着の袖は背中側で結わえて、ぶらぶら邪魔にならぬ様にする。袖に襷掛たすきがけする様なものだ。


「末の姫さまが実は生き延びらいてて遠くの地で御家再興するってウワサ、ありゃ本当かね?」

 敗戦でお城が陥落して、今は駐留軍の本部である。お城に上がっている侍女ならなんか情報知ってるだろうと、たちまち村人数人寄って来る。


「それ、真率マジの話みたいよ。文官が不動産屋呼んで話進めてたわ」

「とんでもない辺境じゃねぇの?」と横から中年のおっさん。

「遠いは遠いみたいだけど、あったかい南部の平野の肥えた広ぉい広い土地がなんとか言ってたわ」


「そんな美味しい話があるのかねぇ」

「まぁ上手い話ばっかりじゃないかもね。なんか反乱とやら鎮圧して前の領主一族吊るし首にして取り上げた土地とかのワケ有り物件とかみたい。だから兵隊崩れを優先して募集するらしいわ」


 遠巻きにしていた人混みの中の頬に傷ある男、眉がぴくりと動く。


                ◇ ◇

 嶺南ファルコーネ城、朝食。

 アシール卿とラリサ嬢、レッドとアリシア。今朝はなんだか、カップル席の様に配置されている。

 副伯夫人ヴィスコンテッサと城代さまも隣り同士だが、これは当然カップルっぽくない。

 アンヌマリーの席が空席だ。


「今朝早く参審人マリウス閣下が来てたにゃん」

「連絡なしで来たから、ばかマリオの席は当然有りませんわ。親しき仲にも礼儀がございますでしょう」

「お昼も要らないかもにゃ」

 良心が咎めるラリサ嬢。


                ◇ ◇

 アグリッパの町、市庁。マックス・ハインツァーが呼び出されている。


「そいつぁ難しいな。冒険者ギルドで読み書き出来る人材って言ったなら、精々が坊さん崩れくらいだ。そんな人数が確保出来るものか。この間だって隣りの州からヘルプを呼んだくらいだ」

「難しいか・・」

 クルツ局長、頭を抱える。


「それじゃ、市内の不法滞在者を見分けられるか?」

「それ、以前あんたら乞食を密告者に使って大失敗こいただろうが」

「いいや、あんたら冒険者ギルドは加入審査のとき前科者をシャットアウトしてるノウハウが欲しい」

「それは秘中の秘だ。漏れたら対策を立てられちまってイタチごっこ突入だ。俺らギルドの存立に関わる」

「それなら入市審査にあんたらの職員を立ち会わせるのは?」

「審査待ちの行列が十里に伸びるぞ」

 クルツ局長、唸る。


「探索者ギルドとかは如何してんだ・・」

「あいつらは何かしらの分野での専門家の集まりだから、世界が狭い。身元が洗い易いんだよ。大概が師弟関係で辿れるんだ」

「彼らのノウハウは一般人には効かんという訳か」

「それに・・此処だけの話にしてくれよ。あいつら技量さえ高けりゃ犯罪歴くらい有ったって庇って囲い込むような連中なのさ」

 クルツも探索者ギルドの秘密主義はよく知っているから、腑に落ちる。


 クルツ局長、溜め息をつく。


                ◇ ◇

 ランベール城下。

 買い物に出ていた侍女、村の市場を出て振り返る。

「手応え・・まずまずじゃん」


 ミシェル・ジョンデテ。父親が入婿におさまってランベール男爵の地位に就いた時は幼かった。

 度重なるボーフォルス男爵家との抗争で、父も弟も殺された。

 彼女のことに関しては、家族の仇に嫁がされた悲劇の令嬢と同情する者と、我が身の可愛さで親の仇に媚びた悪女と蔑む者、評価が両極に分かれる。

 だから人前ではあまり名乗らない。


「旦那の成績も上がるかな」

 彼女の望みは、惚れた夫とのささやかな幸せだ。


                ◇ ◇

 嶺南ファルコーネ城、広間。

 副伯夫人ヴィスコンテッサにこにこ笑って言う。

「アシール卿、お式はウスター城で?」

 卿とラリサ嬢、アイコンタクト。

「地元の皆さんを出来るだけ大勢お招きしたいと、父が奔走しております」

「あら。わたくしとか、地元の者でない者は?」

「勿論、お越し頂ければ光栄であります」


「嶺南の者は、嶺東バッテンベルク家と浅からぬご縁が有りながら、当方の紛擾ごたごたで不義理をいたして居りましたもの。呼んで欲しがる者がさぞ殺到する事でしょう」


「僕らはどこでする?」

 アリシアのひと言に口から心臓が飛び出しそうなのを呑み込んで堪えるレッド。


「このお城なんて何如かしら」と副伯夫人ヴィスコンテッサ


 飛び出す。




続きは明晩UPします。


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