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95.大地の底で憂鬱だった

 嶺南、大穴の奥。洞窟前。


「出て来ちまったじゃねぇか」

「そりゃまあ『お出口』と書いてあったからな」

「・・・」


「戻るか・・」

 洞窟内に戻る。

「『休憩所』だぞ」

「休憩するか」

 一同またテーブル石を囲んで座る。


「考えてみりゃ・・だ。『戻る近道コチラ』って書いてあった事もあったもんな。『お出口』って碑文があっても変じゃねぇや」

 ・・ブリンの言うこと、尤もである。


「あたた・・さっき蜥蜴に尻齧られたんだっけ」

 ブリン、座り直す。

「いや、医術者殿のいる部隊は良いので御座りまする。ただの衛生兵では斯様にはゆかぬ」

「冒険者ギルドの建物に先生の診療所ができたら皆喜ぶにゃん」

「うふふ」

 副伯夫人ヴィスコンテッサ、満更でない様子。


「ねぇお姉さん、さっきのワイルドお兄さんが南隣の男爵の三男さんだったの?」

「不倫男か。でも許そう。危ないとこ助けられちゃったものね」とアンヌマリーが偉そう。

「いや、不可抗力不倫にゃん」

 肩を持つ黒猫。

あのほんわかした感じなレオノーラ様のご子息が、ヘラクレス様ですのね」

「いやジークフリートにゃ」

「『異世界』って言ってた意味、何となく理解わかりましたわ」


「おっと! 『休憩所』なんて書いてあるから、つい休憩しちまう」

「『シナリオの強制力』ってやつ?」

「坊、変な言葉知ってんな」


                ◇ ◇

 アグリッパ、某所。

「ここが当分の隠れ家でやんす」

「ありがとうございます」


あっしらの溜まり場から直ぐ駆けつけられる場所なんで、護衛は次の間に二人づつ。くっ付いてちゃ息苦しいだろうから、護衛の居る部屋を通らないと出入り出来ない間取りん成ってて、三度の飯は女中が届けやんす」

「お手間をおかけします」

 恐縮するイノケンチウス助修士。

「職場の方にゃ、ホラティウスの旦那のお使いで当分出張中ってことに為ってやすからね」

 小男、頭を掻く。

あっしなんざぁ小狡いから、此処の居場所情報を小出しにして、何処どっから漏れるかを調べようとか思っちまうんですがね・・こちらの教会の流儀にゃ合わなそうなんでめやしたよ」


「教会のお為になるならば、どうぞ私めを囮にして下さい」

「いえいえ、イノさんの安全第一で行きやす。ちまちま裏切りもんの炙り出しなぞてねぇで、ズバッと元凶捕まえちまいやすよ」


 大見得を切って見せる。


                ◇ ◇

 嶺南、大穴の洞窟。

「それより『お出口』じゃ無いとこ探そうぜ」

 やっと正気に戻る。


「ただ『休憩所』と書かれているだけで休憩したく為って仕舞うのも、是れ一種の『呪い』かもしれませんねぇ」

「いや祓魔師さん、そりゃ『呪い』じゃねぇだろ」

「悪意による『だらだらしたい気分に為って仕舞う仕掛け』と申しますか・・」

 カルヴァリオ師独自の『呪い』論であった。


「先輩! ここ!」

「フィン、何か有ったか?」

「ここ、押すと倒れそうです!」

 腰より低い位置で奥に通り向けられる穴がありそうだ。


 瞥見ちょっとみには石壁のへこみに見える平面を押すと、ぼすんと板石が奥に倒れた。

「奥側から立て掛けてあるだけだったのか」

 穴をくぐって奥へと進む。

「なんか書いてあります」

 見ると、倒れた板石のこばに『正解』と彫ってある。


「遊んでんだろアルノーさんよ」

「ううむ・・悪意による『仕掛け』と言うより『悪戯心』ですかね」


 ・・アルノー・サグヌススヌ。ひと時代前風な名前の感じで剽げた爺さんの姿が思い浮かぶ。


「にゃ・・」

「こりゃあ・・」

 夜目の利く二人が唖然としている。

「どうした?」

「これ・・地底湖と言っていいレベルなんじゃ無いか・・と」


                ◇ ◇

 アグリッパ、冒険者ギルド。

「だいぶ焦臭きなくさいです」


「気を揉む事はない。ただ純粋に、警邏隊をバックアップするのに良く訓練された猛犬を御所望なのだと思う。我々が排除されてる訳じゃないだろう」

「それでもバランスと言うものが有ります。調査依頼くらい何かご用命が有っても良いのではないでしょうか」


「ウルスラくんの言いたいことは分かる。組合員から不満の声が上がっているって意味だろう?」

「あまりストレートに・・では有りませんが」

「まぁ、事件は知れ渡っているのに、当局からは一向にお声が掛かる気配なし・・じゃ、皆の気持ちも理解わかるかな。ここはひとつ、変に情報探ったりせず、正面から営業かけてみるか」


 ウルスラ、ギルマスの執務室から退席する。


「どうだった?」と、二、三人集まる。

「うちが官公庁営業で遅れを取って干されてるんじゃない。治安当局は大体調べが付いてて、あとは力押しで御用にする段階だから警邏隊を補助する傭兵の手当てを彼方あっちに発注してるだけ・・って、そう言うお考え。正解だと思うわ」


「けっこう大事件だと思ったのに、お呼びは掛からず、か」

「ギルマスが営業かけに動くって。でも、あと二、三日くらい経ったら市民の間に不安が広がって、個人ボディガードの仕事が増えるような気はするわ」


「だけど、今度の件って実際おれら後手引いてるよな?」

「そこは、探索者ギルドあちらさんって裏で『恨み晴らし』屋やらの非合法仕事請けてるって噂の方がリアリティ有るわ。既にあの悪ガキ連中をターゲットに動いてたって噂。ま、こういうのは詮索無用が仁義だけどね」

「詮索して恨まれたらシャレにならねぇよ」


                ◇ ◇

 嶺南、地底湖。

「地底湖・・」

「地底湖にゃ」

「暗くて見えねぇけどな」

「これはロマンチックですわ」

 副伯夫人ヴィスコンテッサのりのりだが危なくないか?


「筏があるにゃ・・」

「お誂えだぜ」

 ・・いや間違いなく誰かが誂えたやつだから。


「レッド殿・・拙僧、猫殿には及びも無いが、其れなりに鍛えて居り周囲が見えて御座る。歩いて行く道は御座らぬ」

「その通りにゃ」

「先ほどの石扉・・此方こちら側から閉じて御座った。そして筏も此方こちら側の岸」

「人は何処へ行ったんでしょうね」とラリサ嬢。


「怪談? これ、怪談?」

「いや・・坊、階段は見当たらねぇなぁ」


「ここ・・いしぶみが!」

 アンヌマリー火の点いた紙縒こよりを持ってフィン少年に駆け寄る。

「ええっと・・『このさき急流ありません』、手形」

 ・・アルノー緊張感ないな」


                ◇ ◇

 アグリッパ、探索者ズーカギルド。

 

「金庫長、御来客です」

「どうしたブルーノ」

「珍客です!」

 その背中を押すように、飄々とした男が来る。

「なるほど珍客だ。久しいなアドラー君」


「いや、黒猫姫が復帰したと聞いて!」

「済まんが其れはガセネタだ。王都に用事が有るそうで、道中みちすがら挨拶に立ち寄って呉れただけだ」

「たはっ・・」

 膝から崩れ落ちそうな落胆ぶり。


「如何したんだ。そんな急用なのか?」

連絡ツナギ取れません? 元相棒の仲でしょ?」

「そんな・・娼婦と常連客の役でちょっと一緒に潜入調査した程度だ。無理言える程の仲じゃ無い」

 ・・言えたら復帰を頼み込んでるよ。


「でもまぁ、詳しく聞こうか」


                ◇ ◇

 嶺南、地底湖。

「水深が深くなって来たぜ。そろそろ竿じゃ届かねぇ」

「オールで漕ぎましょう。せっかく両方揃ってますもの」

 ・・なんだか力仕事をブリンとラリサ嬢に頼り切ってる感じ。


 地底湖とは言うが、横幅は狭い。

「相変わらず歩ける道は無さそうだにゃ」

ぶるっだ、もう一度剣で岩を叩いてみて下さい」

 カーニス耳を澄ます。

「まだまだ先が有りそうですよ」


副伯夫人ヴィスコンテッサ、人が誰も居なかっったって件、気になさいませんの?」

「そうね・・その1。筏は二艘あって、第一班は外の森に戻り、第二班はもう一度地底湖を進んだとか」

「その2は?」

「その2。岸まで戻ってきたとき蜥蜴が襲って来て、慌てて石扉を閉じたけど他の狭い穴から入って来られて蜥蜴のごはん・・とか」

「その2じゃないことを祈りまする」


 筏は進む。



続きは明晩UPします。


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