愛してるが聞きたくて①
総合評価6000pt突破しました。読んでいただいた皆様、ありがとうございます。番外編をもう一つ書きたくなったので、投稿させていただきます。②で完結です。
これは二人が結婚して二年目の話です。
最近ランディ様の様子がなんだかおかしい。毎日顔を合わせる度に私に『愛してる』と言ってくださっていたのに、二週間前からパッタリと言われなくなったのだ。
それだけでなく、夜の回数が急に減った。今までのランディ様は、仕事が遅くなったりリチャードがぐずったりしない限りは毎晩のように丁寧に愛してくださっていたのに。
『ヴィヴィ、愛してるよ』
彼の大きな身体に抱き締められながらそう言われることが、私はとても幸せだった。なのに最近は甘い言葉を言ってくださらない上に、する時も非常にあっさりしている。
私は彼しか知らないので他と比べることはできないが、事務的というか短時間で終わらせたい雰囲気が出ているのだ。終わった後もベッドの中で 距離を取られている気がする。以前なら絶対に、ぎゅうぎゅうと抱き締めて離してくれなかったのに。
――仕事でお疲れなのかしら?
最初はそう思っていたが、二週間もこの調子ならどうやら違うらしい。もしかして私に飽きちゃったとか!?
結婚して二年以上が過ぎている。リチャードを産んでからも彼は私を母ではなく『妻』として扱ってくれていた。だけど……私はランディ様に甘えていたのかもしれない。
最近はドレスや夜着等も可愛さより、動きやすい物を選んでしまっている。家にいる時はリチャードがペタペタと私の顔を触るので、お化粧もしていない。
――もしかして、私可愛くなくなってる!?
もしかすると、そうかもしれない。冷静に考えると自分の女子力が下がっている気がする。
リチャードの寝かしつけに疲れて、自分の髪もボサボサのまま気を失うように眠ってしまうこともある。なるべく起きてようと思っているが、彼が帰ってきた時にお出迎えができないことも増えた。
――妻としてこれはだめだわ。
どうしたらまた以前のように愛してもらえるのか……不安になった私はある人に相談することにした。
♢♢♢
「……というわけで、飽きられちゃったかもしれなくて。私が悪いんですけれど」
私は恥ずかしいけれど、最近何となくランディ様との仲が上手くいっていないと説明をした。
「何言ってるのよ!?こんな可愛いあなたを愛さないなんて、ランドルフの方がおかしいんじゃないの?」
そんな風にバッサリと冷たく言い放つのは、クロード様の奥様であるシュゼット様だ。騎士団の夫人会というものがあり、それに参加した私はすっかり彼女と仲良くなっていた。
十歳上の綺麗なお姉さんで、私を妹のようにとっても可愛がってくださっている。そしてお二人お子さんがいらっしゃるとは思えない美しさと色気。うーん……見習いたい。
「ランドルフがあなたを溺愛してるのは間違いないわ。酔っ払ったら『ヴィヴィが好きだ』『ヴィヴィを愛してる』って惚気るもの。でも、急に素っ気なくなったのは確かに気になるわよね」
「ランディ様は、酔っ払ったら惚気けていらっしゃるのですか」
まさかクロード様やシュゼット様の前でそんな……。私はポッと頬が染まった。
「ランドルフに限ってあり得ない気がするけれど、倦怠期ってやつかしら?ねえ、ヴィヴィアンヌ様から積極的にいってみたらどう?きっと喜ぶはずよ!」
「わ、私からですか!?」
「そうよ。役職付きの騎士なんて、常に女達が群がってくるんだから負けちゃだめよ。女の魅力を前面に出して、あいつをもう一度メロメロにさせてしまいなさい!」
ビシッとそう言われて、私も覚悟を決めた。それからはシュゼット様にどう頑張ったらいいかを色々と教えていただき……正直恥ずかし過ぎて倒れそうだったが『結婚してるんだから恥ずかしいことはない!』と背中を押してもらえた。
彼女の話を聞くと、私がいかにランディ様に任せっきりだったのかがわかった。もう私は奥様二年目。初心なのは卒業して、もっと成長しなくては。
「私、頑張ります!もう一回愛してもらいます!!」
「ええ、頑張って。ヴィヴィアンヌ様ならできるわ」
シュゼット様に勇気をもらって、私は気合を入れた。そして別れ際に「あいつがもし浮気してたら、クロードに刺してもらうから遠慮なく言いなさいね」とニコニコ笑いながら物騒な発言をされた。
でも私は……ランディ様は浮気はしていないと確信している。もし本当に私以外を好きになったのであれば、彼は正直に言ってくださるだろう。
「浮気の心配はしていません。彼は私と結婚しているのに、そんなことをするしょうもない男ではないと信じてますから」
私がそう言うと、シュゼット様は嬉しそうに微笑み優しく抱き締めて下さった。その瞬間に、ふわっといい匂いがする。それに胸がふかふかで気持ちがいい。いいなぁ……シュゼット様みたいな大人で素敵な女性に憧れる。
「あなたのそういうところ大好きよ」
「ありがとうございます。話を聞いていただき、感謝致しますわ」
「武運を祈るわ!」
「ふふっ……はい!」
シュゼット様に相談したら、少し気持ちが軽くなった。よし、頑張るぞと気合を入れた。
♢♢♢
この一週間……私は積極的に彼にアプローチをしたが、どれも失敗している。
ある時は自分からキスをしようと彼に近付いたが、緊張してじーっと見過ぎていたようで「何か用か?」と不思議がられた。
そしてまたある時は、あまり飲まないお酒を飲んで酔った勢いでランディ様の肩に頭を乗せて甘えてみた。ランディ様は「もう酔ったのか?可愛いな」なんて言いながら頬にキスをしてくださったので、かなりいい雰囲気だった。
なのに……なのに!彼は私をひょいと横抱きにしてベッドに連れて行き、頭を撫でながら寝かしつけてきた。
とても気持ちがいい……けど、違う!私が求めていることは違うのに。
こうなったら彼を自分から誘おうと、昨夜は薄着でベッドで待ち構えていたが、そんな日に限ってランディ様は帰ってくるのが遅く……いつの間にか寝てしまっていた。
しかも朝起きたらきっちりと夜着を着せられており「夜は冷えるから薄着だと、風邪をひくよ」なんて子ども扱いをされた。わざと肌を見せていたのに……。
――こんなに難しいとは思わなかった。
そしてついに今夜は決戦の日だ。ランディ様は早めに家に帰って来られた。よしよし、計画は順調だわ。
「ただいま」
「お帰りなさいませ」
リチャードを抱いたまま出迎えると、彼は嬉しそうに目を細めた。息子も嬉しいのか「きゃっきゃ」と笑いながらランディ様の頬をペタペタと触っている。
それから一緒にディナーを食べ、リチャードを寝かしつけた。
「ミア、今日は勝負の日なの。申し訳ないけれど、リチャードをお願いするわ。今はすやすや寝ているから」
「それは構いませんが、勝負とは?」
「これから私達の夫婦生活が上手くいくかどうかよ」
私が真剣な顔でそう伝えると、ミアは驚いた顔をした。ランディ様の様子が最近おかしいことは、この家の使用人達全員気が付いていた。
「……わかりました」
ありがとう、と伝えて私はお風呂に入って準備に取り掛かった。きっとランディ様は今夜は私に触れない気だろう。だけど、こっちはそういうわけにはいかない。ランディ様は明日は休みだ。だからこそゆっくり夫婦でイチャイチャしてもいいはずだ。
「私だってやればできるわ」
彼好みの可愛らしい夜着を身に纏い、ガウンを着てベッドでランディ様を待った。しばらくすると「入るよ」と声がして彼が現れた。
ランディ様は私の隣に座り、するりと髪をひと撫でしてちゅっとおでこにキスをした。
「……そろそろ寝ようか」
シーツをめくって中に入るように促される。最近はいつもこうだ。なんだか泣きそうになってきた。ランディ様は優しい。でも、おでこのキスなんかじゃ足りない。優しいハグでも足りない。
――私は彼を愛してる。
我儘だけれどもっともっと……もっと彼が欲しい。彼を愛したいし、彼から愛されたい。
私は自らガウンを脱いで、そのまま床に落とした。ランディ様はポカンと口を開いて驚いている。そりゃそうだろう……私は自分で脱いだことなんてないからだ。
「ランディ様、愛してます」
固まってるランディ様に微笑み、強引に押し倒して無理矢理唇を奪った。丁寧にゆっくりと彼の唇を舌でなぞっていく。
「ん……っ」
ランディ様から声が漏れた瞬間に、さらにキスを深めた。最初は戸惑っていた彼も、いつの間にか私のキスに応えてくれている。
緊張しながら彼のガウンに手をかけ、首にちゅっちゅと口付けたところで私の手はガシッと掴まれた。
「こら。こんなこと誰が君に教えた?」
ランディ様は色っぽいため息をついた後、ギロっと私を睨んだ。
「秘密です」
「ヴィヴィは悪い女だな。俺が……せっかく我慢してるのに」
――我慢?
我慢とはどういう意味だろうか。そんなことを考えていたら、一瞬で景色が反転した。
「ひゃあ!」
彼にクルリと身体の位置を変えられたのだ。私を見下ろすランディ様の瞳が、ギラギラと欲を持っているのがわかる。
「煽ったヴィヴィが悪い。今夜は手加減できないから」
「ランディ様……あの、今夜は私があなたにしたいのです」
いつも任せてばかりだから、今日こそは私がリードしたかったのだ。あなたが私に飽きないように。
「それは……とても魅力的な提案だけど、また今度にしてくれ。今は俺がたっぷりヴィヴィを愛したい」
「えっ!?」
「全然足りないんだ、君が。もう我慢できない」
そう言われて、私はランディ様に噛み付くようにキスをされた。
「ヴィヴィ、愛してる」
彼が熱っぽい視線を送りながらくれた『愛してる』を聞いて、私は嬉しくて涙が溢れた。
「ランディ様、好き。大好き。愛しています」
ランディ様に抱かれながら、私も必死に彼への愛を言葉で伝えた。激しく愛された後……薄れゆく記憶の中で、彼が嬉しそうに笑った顔が見えた。