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騎士団長の旦那様は小さくて年下な私がお好みではないようです  作者: 大森 樹
番外編

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30/35

お任せください①

まだ子どもができる前の話で、ヴィヴィアンヌ視点です。

「遠征中の飯が不味いんだ。長期遠征になればなるほど辛い」


「そうなんですか。それは嫌ですね」


「十何年もこの生活だから、さすがに慣れてはいるが嫌なものは嫌だな」


 ある日、ランディ様がそんなことを言いだした。私は食べることが大好きだから、その話を聞いて哀しくなった。魔物討伐は体力がいるのに、何日も不味いものを食べるのはさぞかし苦痛だろう。


「料理人を連れていけないのですか?」


「……危険だから、騎士以外を連れて行けない。しかし剣ばかり振っている男どもが、まともな料理などできるはずもない。まあ、俺も人のことは言えんレベルだがな」


 そもそも腐るので、持っていける食材自体が少ないらしい。そりゃそうか。


「料理をシェフに習うとか?」


「考えたこともあったが、シェフ達の料理は難しすぎてな。できないんだ」


 なるほど。確かにシェフは専門職なので、こだわりの強い人が多い。たぶん大雑把な料理を教えてくれる人はいない。


 中には平民出身で、それなりに料理ができる人もいるそうだが……そんな人が数人いたところで大人数の食事を作れるはずもない。


「携帯食も不味いんだよな。ボソボソしてるし。だから、長期遠征から街に戻ってレストランで食事ができた時は嬉しいんだ」


 携帯食は硬いビスケットのようなものだ。様々な物が混ぜて作ってあり、栄養はあるがボソボソとして美味しくない。


「ランディ様、お可哀想」


 そう言うと、彼はおいでと手招きして私を膝の上に乗せ後ろから抱き締められた。


「だから、ヴィヴィと一緒に食べる美味しいご飯により幸せを感じるんだ」


 すりすりと私に甘えるランディ様を、ギュッと抱き締め返した。彼はなんとなく私にこの話をしただけだろう。だけど、大事な旦那様の一大事だ!困っているなら、何とかしてあげたい。


 私は気合を入れて、グッと彼を胸を押しのけて彼をじっと見つめた。


「ヴィヴィ……?」


「ランディ様、私にお任せ下さいませ!」


「……何を任せるんだい?」


「私が遠征中も美味しいご飯を食べられるようにしてあげますからね!」


 ランディ様は「ん?」と首を傾げて不思議そうな顔をしていたが、私は本気だ。


「よーし!では私は色々忙しいので、また」


 ぴょんと彼の膝からおりると、彼は焦ったように私を呼び止めた。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。何処に行く?」


「調べ物をしなくてはいけません!それに相談もしたいし、材料も考えねば!そうだ、図書館にも行きたいですね」


 私はこれからしなければいけないことを頭の中で、ぐるぐると考えた。


「ヴィヴィ!それは今しなければいけないのか?もう少し君とイチャイチャ……」


「思い立ったが吉日と言いますもの。ランディ様はゆっくりしててくださいませ!」


 彼に笑顔で手を振って、部屋を出て行った。私が彼にできることなんて少ない。だからこそ、力になれることは全力で協力したい。


 それから一週間私は必要な書物を読み漁り、家のシェフや街の食堂で相談をした。なんとか形になりそうだけれど、これから実践だ。


 貧乏だったことがこんなところで、役立つとは思わなかった。私は簡単な料理はできる。しかし、この家のシェフ達のように凝った料理はできない。


 そんな私だからこそ、今回は役に立てる気がするのだ。そしてファンタニエ家では保存食として干したお肉や魚、野菜も作っていた……貧乏だったから。それを今回は使えたらいいなと思う。


 ランディ様が仕事に行かれている間は、ほとんどの時間研究に力を注いだ。この前は……ベッドの中でも料理のことを考えてしまって、ランディ様に怒られてしまった。


「ヴィヴィが俺のために色々研究してくれているのは嬉しい。だけど、ベッドの中で考え事は良くないな」


 彼はムッと拗ねた様子で、私の顔をじっと覗き込んだ。


「あ……す、すみません」


「謝る必要はない。違うことを考える余裕を与えた俺が悪いのだから」


 そう言って色っぽく微笑んだ彼に、ドキッとした瞬間……優しく押し倒されて甘い口付けを受けた。


「今は俺のことだけ考えて」


「んっ……はい」


「いい子だね。愛してるよ」


 そこからは他のことを考える暇などないくらい、それはもう凄い夜だった。いつもより激しく愛されたのは『最近構ってくれなくて寂しかった』から……らしい。ランディ様と二人きりの時は違うことを考えないようにしようと心に決めた。



♢♢♢



「じゃじゃーん!できました」


「……これが?」


「はい!これできっと遠征中もご飯に困りません。食べてみてください」


 私は鍋から具沢山のスープをお皿に一杯よそって、ランディ様に手渡した。


「……これは美味い!」


「わーい、嬉しいです。これは全部干したお野菜やお肉で作ったんですよ」


 私は褒められて、両手を上げて喜んだ。何日も試作を繰り返した甲斐があったわ!


「そうなのか。今までも干し肉をスープに入れたことはあったが、こんな美味くはならなかったぞ」


「これは干し肉にあらかじめ色んな味をつけておいたのです。ハーブとか塩とかたっぷりつけて、スープの旨みを取れるようにしました!」


「……なるほど」


 これならば入れて煮込むだけで、味が決まるし干し肉も戻って柔らかくなるので具の一つになる。そこに野菜を入れればさらに美味しさが増すというものだ。


「こっちも食べてみてください。遠征中は獣を狩って食べることもあるんですよね?」


「あるが……臭いんだ。シェフ達が上手く調理しないと食べられたものではない」


「これは私が焼きました。どうぞ」


 目の前のステーキをチラリと見て、ランディ様は恐る恐るナイフで切り口の中に運んだ。


「……美味い。本当に君が焼いたのか?」


 私はその言葉を聞いてガッツポーズをした。よかった、お気に召してもらえて。


「臭み取りに塩と酒で下処理をして、水で何度か洗います。そしてまた調合したスパイスをかけて焼くとこんなに美味しくなりました!……ちょっと高価な胡椒とかも贅沢に使っちゃいましたけど」


 そこは美味しく食べてもらうために、公爵家の財産を使わせてもらった。胡椒は高いが、この家では問題なく買えるから。


「ヴィヴィは凄いな。こんなものを思いついて」


「貧乏だった時の知識です。干し肉とか干し野菜を作ったことがあって。これなら日持ちしますし!味付けのことはシェフや街の皆さんにも相談しました」


「ありがとう。俺の奥さんはすごいな」


 ランディ様に抱き寄せられ、頬にキスをされた。私は褒められたことが嬉しいが、照れ臭くてへへへと笑った。


「ランディ様のためなら何でもします」


 ニコニコと笑ってそう言うと、彼は私の顔を覗き込んでじーっと見つめた。


「ヴィヴィ、なんて可愛い事を言うんだ!俺がなんとなく言ったことを……俺のために……こんなことまで」


「当たり前です。私はあなたのつ、妻ですから」


 まだ自分で妻と言うのは少し恥ずかしくて頬が染まってしまう。


「可愛い、好きだ。愛してる!」


 その場でぎゅうぎゅうと抱き締められ、顔中にちゅっちゅとキスの嵐を受けた。ランディ様が私を愛でる時はいつもこうなる。使用人達はもうこの光景は見慣れているため『無』を貫いてくれている。うう……申し訳ない。


 このまま雰囲気に流されたら、ベッドに連れて行かれる危険性がある。ここは私がしっかりしなければ。


「ランディ様……これらの作り方は簡単ですけれど、コツがあるので今度騎士団の皆様に作り方を教えに行きますわ」


「わざわざ来てくれるのか!?」


「はい」


「職場でも逢えるなんて幸せだ。でも可愛いヴィヴィをみんなに見せるのは勿体無くて嫌だな」


 彼は私の髪の毛をくるくると指で遊びながら、そんなことを言っている。


「勿体無い?私は減りませんよ」


 彼のよくわからない言い分に、くすくすと笑ってしまう。


「ヴィヴィは可愛いから、変な虫がついたら困る。だから、なるべく見せたくない」


「変な虫って……」


 騎士団にいるのは、あなたの大事な部下達ではないか。そんなことあるわけないのに。


「自分で言うのもなんですが、私モテませんよ?殿方には子ども扱いされますもの」


「最近社交界では君がめっきり色っぽく美しくなった、と噂されているのを知らないのかい?まあ、今更魅力に気付いても遅いがな」


 え、そんな噂があるの!?でも、それが本当なら一つしか原因は考えられないではないか。


「私が色っぽく変わったのであれば……それはランディ様のせいでしょう?」


 私は真っ赤になりながらそう言った。彼に愛されたことによる変化だと思う。子どもだった私が心身共に大人の女になったのは、ランディ様と結ばれたからだ。


「そうだな」


「私はランディ様しか愛せませんから、変なご心配はなさらないでくださいませ」


 嬉しそうに笑って『虫除け』だと私の首にキスマークをつけたので、彼に長々とお説教をする羽目になった。


「見えるところはやめて下さいませ!いい大人なのですから、独占欲もいい加減にして下さい」


「……悪かった」


「今夜は一緒に寝ませんからね!」


「ちょっと待ってくれ!ヴィヴィ……それは無理だ!何度でも謝るから!!」


 彼は泣きそうな声で私に縋り付いたが、心を鬼にした。甘やかしすぎてはいけない。


「謝るだけなら誰でもできます!()()なさってくださいませ」


「ヴィヴィ……!」


 彼とこれ以上一緒にいると、許してしまいそうなので急いで自室に戻った。鏡で吸われた赤い跡を見ると、恥ずかしくてしょうがない。


「言いすぎたかしら?」


「旦那様の自業自得です。奥様が正しいですわ」


 ミアがため息をつきながら、全面的に私を肯定してくれた。しっかり反省なさったら……夜は一緒に寝てあげようかな、と思う私はやっぱりランディ様に甘いのかもしれない。




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