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姉妹

登場人物のおさらい

シャンテル  伯爵家に拾われた少女。前世は楊貴妃。前世の記憶が時々蘇る。

マルガリーナ シャンテルが侍女として仕えている、プラバトー家の二女。

ガドランシア マルガリーナの姉。美少女として有名だったが。

ピクティス  ガドランシアの婚約者。侯爵家嫡男。女性への注文が多い。

 夏至まであと二週間。

 ある日、シャンテルは敷地内を散策していて、一本の木を見つけた。

 つややかな緑色の葉に、たくさんの赤い実がついている。


 根元に落ちている実を一つ拾うと、茶色に変色した表面に、小さな突起がたくさん付いている。


「これ、ま、まさか……」


 震える指先で皮を剥くと、ぷるんとした乳白色の果実が現れた。

 ためらうことなく、シャンテルは果実を口にする。


「ああ……この味……」


 口中に広がる、懐かしい香り。

 同時にシャンテルの脳裏に浮かぶ、あの頃。


『これは、お肌を綺麗にする貴重な果実よ』


 姉たちと競い合って、もぎたての実を食べていた微かな記憶。


『ずるい、お姉さまばかり!』


『何言ってるの、玉の方がたくさん食べているでしょう』


 三人の姉と野原を走った。

 くすくす笑いながら、隣同士で寝た。


 仲は良かったのだ。

 幼い頃は……


 

 シャンテルが赤い実をいくつか取っていると、背後からバタバタ足音が聞こえた。

 マルガリーナ?

 いや、違う。

 シャンテルの視界に、金色の髪が過った。


「ガドランシア、様?」


 ガドランシアは木の根元にうずくまり、肩を震わせた。

 その手には一枚の紙が握られている。


 今の時間、ガドランシアは家庭教師の一人が、ダンスを教えているはずだ。

 何かあったのだろうか。


 シャンテルもガドランシアの側に座り、そっと背中を撫でた。

 ガドランシアは、ぽたぽたと涙を流していた。


 時折吹く風が、木々の葉を揺らす。

 

「がん、頑張った……のに……」


 ガドランシアが、途切れ途切れに言葉を出す。


「わた、わたし、頑張って……きたのに。なんで……なんで」


 シャンテルもそれは知っている。


 貴族の子女である。

 嫁ぐまでに、身に付けなければならないことは、たくさんある。

 貴族としての所作や常識を、教え込まれるのだ。


 ましてやガドランシアの婚約相手は、侯爵家の嫡男である。

 格上相手との成婚は、一層気を使う。


「何か、ありました?」


 背中を撫でながら、シャンテルは訊く。


「……行かないって……」


「えっ?」


「わたしとは、夏至祭に行かないって!」


 再びガドランシアの目から、大粒の涙が落ちた。

 彼女の婚約者、ピクティスから、『夏至祭には、友人と行く』旨の手紙が届いたのだった。

 ガドランシアが握りしめている紙は、どうやらピクティスからのそれだ。


 シャンテルも、夏至祭に参加するのは初めてである。

 ただ、養父母から、王都での夏の一大イベントであることは聞いていた。

 特に祭りの最後、王宮から流れ出る小川に、蓮の葉に小さな灯り乗せ、大切な人と一緒に灯りを見守ると、幸福が訪れるそうだ。


 その夏至祭に一緒に行けないと婚約者から告げられた、ガドランシアの心の傷みはいかばかりであろう。シャンテルは小さく息を吐く。


「マルガリーナ様とわたくしは、一緒に行く予定です。……よろしければ、ガドランシア様も……」


 ガドランシアは顔を上げ、真っ赤な目でシャンテルを睨む。


「マルガリーナは良いわよね! いつも誰かに助けてもらって! なんで、なんでいつも、わたしばっかり……」


 ガドランシアは、先週ピクティスがやって来た時のことを思い出す。

 マルガリーナとシャンテルが、庭園で遊んでいる姿を見たピクティスは言った。


「随分、綺麗になったな、マルガリーナ嬢。肌が透明だ」


 それに引き換え、とでも言いたそうに、彼はガドランシアを冷ややかに見下ろした。

 ガドランシアは、額に一つ、頬に二つ、赤い発疹が出来ていた。

 ピクティスは、口を開けば他家の令嬢の話ばかり。

 あるいは、美貌の令嬢と婚約した令息を、貶すようなことばかりだ。


「連れて歩く女の美しさで、男の価値は変わるのだ」


 そんなピクティスの言葉を、ガドランシアは素直に聞いていた。

 年上で格上の婚約者の言うことだからと、受け止めていた。

 ただ、悪口や噂話は、聞かされた方に負荷がかかる。

 ピクティスとの交流は、ガドランシア自身が思っているよりも、ストレスを生んでいた。


 ピクティスから、夏至祭に一緒に行くことを断られたガドランシアは、そのストレスが爆発したのだった。


「ガドランシア様。わたくしはマルガリーナ様の侍女でございますが、ガドランシア様がそうお望みなら、少しばかりのお手伝い、させていただきます」


 ガドランシアは瞼をこすり、すくっと立ち上がる。いつもの表情になった彼女はシャンテルに命じる。


「そう? なら、わたくしを美しくしてちょうだい! 顔の赤いぶつぶつを消して! 今すぐ!」


 いつもの調子に戻ったガドランシアに、シャンテルは微笑む。


「かしこまりました」



◇◇◇


 シャンテルは、ガドランシアの部屋に、赤い実と飲み物を運んだ。

 先ほど庭で見つけた実である。

 赤い実をつけた木はリケイロという名であると、厨房で聞いた。


「これがあの実の中身? 食べられるの?」


 ガドランシアの前には、皮を剥き、種を取ったリケイロの実が並んでいた。

 種はシャンテルが庭に干した。あとで種も使うのだ


 表面に、うっすらとピンクがかった乳白色の実は、ぷるぷるとして甘い香りが漂う。

 恐るおそる、ガドランシアはリケイロの実を口に入れる。

 ガドランシアの咽喉が動く。


「あっ……」


「いかかですか? ガドランシア様」


「わ、悪くはないようね」


 そう言って、ガドランシアは並べてあった十個ほどの実を全部食べた。


「これで、本当に綺麗になれるの?」


 シャンテルは悪戯っぽく笑う。


「いにしえの、どこかの国の後宮で、集められた百人ほどの女官から、一番皇帝に愛された女性が、一番好きだった果実です」


「へえ……」


 妙に感心したガドランシアは、小声で言った。


「シャンテルって、私より年下なのに、よく知ってるわね、そんなこと」


 シャンテルは微笑しながら、ガドランシアに肌の手入れの方法を教えた。

 後日、乾燥したリケイロの種を煎じたお茶を、彼女に勧め、自分も飲んだ。

 夏至を迎える前には、ガドランシアの肌はキメ細やかを増し、赤い発疹は綺麗に消え去った。


「でも、一緒に行ってくれる殿方がいないわ。どうしましょう」


 ドレスを合わせながら、ガドランシアはシャンテルにぶつぶつと言う。


「マルガリーナ様とご一緒にいきましょう。わたくしもお付き添いいたします」


 すっきりした顔で、ガドランシアは頷いた。マルガリーナに告げると、マルガリーナの目が輝いた。


「お姉さまと一緒に行けるのね! 嬉しいわ」


 姉妹はそれから毎日、どちらかの部屋で打ち合わせを行った。

次回、夏至祭になります。

マルガリーナとガドランシアは、夏至祭を楽しめるでしょうか。

シャンテルは、そろそろ本領発揮するかもしれません。


お読みくださいまして、ありがとうございます。

誤字報告、助かっております。

感想、評価、お待ちしております。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 前話からガドランシアが闇堕ちするんじゃないかとハラハラしましたが、シャンテルの活躍で姉妹中も安泰になりそうです(*´ω`*)
[一言] こうして改めて見てみると、楊貴妃って凄い女性ですね( ˘ω˘ )(小並感)
[良い点] ライチだ!! ライチだ!!すごくすごーく好きです!! 自然の甘みもいいけど、あの食感がたまりません!!プルプルです。 美肌に効くんだーー!! 知りませんでした!! [気になる点] あと似た…
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