再度観光
荷物を持っていないせいか、町に来た時よりも軽やかに坂道を登れている気がした。
しかしまあ疲れることは疲れるけれど。
「ちょっと休憩しない?」
ソフィーが言った。
たぶんたくさん食べたから、体が重くなっているのだろう。
ただその提案も悪くなかったので、旧広場でいったん休憩をすることにした。
屋台は建ち並んでいないけれど、ベンチがいくつかあったので、三人で腰を掛ける。
町の真ん中に現広場があるので、旧広場は現広場とペンションの中間に位置する。
寂れ具合もなかなかのもので、暗くなってくると女性が一人でいるのは怖いのではないだろうかと思えるほどだ。
もちろん今この旧広場には俺ら三人しかいない。全くもって使われていないようだ。
「あそこにも井戸がありますね」
ハリエットの示すところを見てみると、古くなって瓦礫と一体化していてわかりにくかったけれど、井戸があった。しかし水はもう枯れていた。
広場の造りとしては現広場も旧広場も変わりはない。
上り坂の道が広場を突っ切る形になっており、ペンションに向かって左側に井戸がある。
ちょうど井戸の正面に腰を掛けていたようだ。
一度腰を掛けたら疲れがどっと出てきた。
ソフィーもハリエットも表情から疲れが見て取れる。観光地というのは誰しもハイになるものなんだな。
「あそこも“幸せの井戸”なのかしら」
「そうかもな。観光地って結構がめついからな」
「がめついというのは?」
ハリエットが首をかしげている。
「なんていうか、観光客ってほら、浮かれているだろう? だから心理的にお金を使いやすいんだ。それをいいことに意味もないことに意味を持たせてお金を使わせる」
「なるほど。たしかに私もいつもより大盤振る舞いをしてしまった気がします」
「そうね、私もそうかもしれないわ。これからも旅は続くのに」
思いもよらないいい展開になった。散財は控えよう、と伝えるなら今しかない。
「そうだよな。だからお金の使い方はしっかり考えような」
「そうね。そうするわ」
珍しくソフィーが素直に聞き入れる。
いや、ソフィーは普段から素直か?
「私も気をつけます。でも純也様もお気を付けください。先ほど私に焼き鳥を買ってくれましたが、あれも今後は控えましょう。嬉しかったですが」
「え、ちょっと何それ!?」
ソフィーが立ち上がる。
「何それって……。さっき焼き鳥四本になったから数合わせで二本追加しただけだよ」
急に大声で言い寄ってくるので驚いてしまった。
「聞いてないんだけど」
「言ってないからなあ」
「ずるい! 私にもなんか買ってよ!」
まだソフィーには元気があったようだ。
「明日でいいか?」
「今がいい!」
「ええ。また下るの?」
また下るということはまた上るということだ。
「そう! 焼き鳥一本買って来て!」
「もう夕飯だよ?」
「そういうことじゃない!」
これは従うしかない。
ハリエットに目をやると「余計なこと言っちゃったかな?」みたいな表情をしている。
いや、これはしょうがない。ハリエットが悪いのではない。誰も悪くないということにした方が平和的だ。
「わかったわかった買ってくるよ」
「うん。そうして……」
さっきまで声を張っていたソフィーがしゅんとする。
「じゃあ二人ともここで待ってて。行ってくるから」
「ありがとうございます。さすがに私も疲れました。休憩がてらここにいます」
何かあってもハリエットがいれば安心だろう。
二人に手を振って再び坂を下った。