観光③
俺らが旅をする理由は、怪しげな人物に狙われているかもしれないという疑念があったからだ。
実際に狙われているかは不明だけれど、用心のために旅を始めた。逃避行みたいなものだ。
だから俺はそいつから逃れられるように三枚のコインを入れた。
ソフィーに見られていないようだったのでよかった。
見られていたら「何で三枚なの?」と問いただされていただろう。
ソフィーたちも怪しげな人物と対面しているけれど、奴が俺の能力に感づいたであろうことは伝えていない。だから狙われているかもしれないなんてこれっぽっちも考えていないだろう。
そもそも俺の能力は誰にも言っていない。日本からの勇者は秘めた能力という規格外の能力を持って転移してくる。
俺もその能力は授かっている。上位魔法をも凌駕する下位魔法だ。言葉にすると伝わりにくいけれど、一般的には弱い下位魔法の威力が上位魔法に匹敵するということだ。言い替えても伝わりにくいか。
しかしそれを隠して今までやってきた。もちろんソフィーも知らない。
これからも隠せるうちは隠したまま生活していくつもりだ。ただの下位魔法しか使えない秘めた能力のない勇者としてやっていくつもりだ。
そのためには奴との決別は必須だ。奴が俺に無関心ならそれでいい。そうじゃないとしたら困ったもんだ。
対峙するのも気が引ける。かといって逃げ続けるのも面倒だ。
今のところの俺のプランとしては旅をしながらテキトーに過ごし、テキトーな場所に住まいを見つけ、そこでのんびり暮らすことだ。
俺が人畜無害であるということをアピールすれば、奴の関心も薄れるだろうという魂胆だ。
上手くいくかはわからない。ハリエットも巻き込んでしまった。
でも二人の笑顔を守っていきたいと願っている。
「ねえ! ちょっと願い事長すぎない?」
ソフィーに肩をゆすられ、ハッとする。
「え、あ、ああ。ごめん」
「欲張り過ぎよ」
そう言ってソフィーは笑っていた。
ハリエットも「そんなに願い事があるのですね」と笑っていた。
だんだんと表情が豊富になってきているようだ。
「それじゃあ夕飯時になるし、帰るか」
二人の笑顔を見て安心した。
「そうね」
「そうですね」
ソフィーは「また坂を上るのかぁ」とぼやいたけれど、それは俺も思ったことだ。
夕食を食べたら久しぶりの湯船とベッドでゆっくりしようと思った。