観光①
広場はにぎわっていた。
かつては観光名所として栄えていたと言っていたが、今でもそれなりに活気があるように思えた。
「ねえ純也、あの焼き鳥も食べましょうよ」
ソフィーがもくもくと煙を出す屋台を指さして言った。
「あれはアーガルムでも食べてたじゃないか。ここで食べることもないだろう」
「違うわよ。何を食べるかじゃないわ。どこで誰と食べるかが大事なのよ」
頬を膨らませて俺の腕をバシッと殴るソフィー。
「なるほど。それは言えていますね。ソフィーさん、勉強になります」
ハリエットが小さく手を叩いて感心している。
「ほら、ハリエットも言っているわよ。食べましょ食べましょ」
夕飯が食べられなくなってしまうのではないかと思うくらい屋台で買い物をしている。
お金に余裕があるとはいえ、俺らは定職のない旅人だ。散財するわけにはいかない。
一番最初の町でこんな感じだと先が思いやられる。
しかしまあその都度どこかでマンドレイクでも採取すればいい。なんせマンドレイクのソフィーがいるのだから。
財布の心配をしている俺を横目にいや、目をつむっているかの如く買い物をしている二人。
楽しそうなので釘を刺すようなことはやめた。あとでタイミングを見計らって伝えよう。
「お、いらっしゃい。姉ちゃんたちはどこから来たんだい?」
焼き鳥屋のおっちゃんがにこやかに話しかける。
「アーガルムよ」
ソフィーはそう言うと、「焼き鳥三本」と注文する。
「ほほう。アーガルムか。遠いところからよく来てくれた。一本おまけしておくよ」
「うわぁ。ありがとう」
こういうところがソフィーの持ち味と言っていい。いろいろと得をする性格だ。
その反面厄介ごとも持ってくることも多いけれど。
「結構にぎわっていますね」
俺もおっちゃんに話しかける。
「やっとまた戻ってきたって感じかな? 兄ちゃんたちは初めてかい?」
「ええ。旅を始めてまだ四日目です」
「そうかそうか。ご苦労なこったい。数年前ならもっとにぎわっていたからなぁ。その頃のノッキオを見せてやりてぇくらいだ」
イミゼスが昔を懐かしむように言った。
イミゼスというのは焼き鳥屋のおっちゃんのこと。「町のことで聞きたいことがあったらこの俺イミゼスか、観光案内所にきいてくれぇ」と言っていたけれど、たぶん聞きたいことがあったら観光案内所に聞くだろうな。
「ここより上の広場は昔は使われていたんですか?」
「そうだよ。昔はあっちの方がにぎわっていた。今じゃこの真ん中あたりしか賑わいがない」
「そうなんですね。ありがとうございます」
「おう。ノッキオを楽しんでいってくれ」
そう言って笑ってくれたので、こちらまで気が良くなった。
お礼じゃないけれど、焼き鳥二本を追加で頼んだ。
あれ? もしかしたらおまけの一本はこの二本を売るための商法か。
もしそうだとしたらイミゼスはなかなかの商売人だ。
「ちょっと純也、あっち側も見ましょうよ」
ソフィーが俺の袖を引っ張る。
道を挟んで半分だけしかまだ見ていない。
「わかったよ」
イミゼスに会釈すると手をあげて答えてくれた。
追加で買った焼き鳥を一本ハリエットにあげた。
さっきのおまけはソフィーが有無を言わさず食べていたから。
まああれはソフィーがもらったものだし、文句のつけようがない。
「ほらほら。あそこが井戸よ」
ソフィーに引かれるがまま進んでいく。
町に着いた時に見かけた井戸だ。かなり立派なものだが、町の人たちの生活用水ではなさそうだ。
井戸の隣に立て看板があり“幸せの井戸”と書いてあった。