ペンション②
荷物を置いてすぐに部屋を出る。
隣の女子部屋二〇一号室をノックする。ちなみに俺は正面の二〇二号室。
「おーい。出発の準備できたぞー」
ドア越しに声をかけると、「ちょっと待ってー」という声が聞こえた。
荷物を置いてくるだけなのに何に準備が必要なのだろうと疑問に感じたが、ロビーにはなかなかいい造りのソファが置いてあって、いくつか書物があったのを思い出した。
何か面白い本でもあるかもしれない。
「それじゃあロビーにいるから」
ソフィーの「はーい」という声を聞くと俺は階段を降りた。
ペンションは入り口すぐ左に受付があり、右側にはロビーがある。ここは天井が高く二階部分は吹き抜けになっている。受付の奥の扉の先はオーナーの部屋となっている。
正面には階段があり、その先は客室になっていて、右手前から二〇一号室、その正面が二〇二号室、二〇一号室の隣が二〇三号室となっている。右側が奇数で、左側が偶数。
階段横の扉が食堂の入り口だ。客室の下が食堂ということだ。
職業病というのだろうか。初めてきたところのものや形状を記憶しておく癖がある。
それによって悪いことが起きていないので、問題はないのだけれど。
階段を降りるとすぐに右側に受付があるが今は誰もいなかった。
夕食作りでもしているのだろうか。いや、まだ昼ごろだ。始めるには少し早い気がする。
そんなことを考えながら書棚に目を通す。
着いた時より少し本の数が減っているように感じるが、テキトーに一冊手に取る。
「先ほど他のお客様がいくつか本を持っていかれたのですが、その本もおすすめですよ」
「うわぁああ」
急に声をかけられたので思わずびっくりしてしまった。
「おや、すいません。驚かせてしまいましたね」
エキオンがにこにこと笑っている。
「いえ、すいません。二人を待っている間に読もうと思って」
自分でも何に謝っているかはわからないけれど、それくらい驚いたということだ。
「そうですか。お部屋にお持ちいただいても構いませんよ。でも持ってチェックアウトはご遠慮ください」
「それはわかっています」
「それならば安心しました。それでは私は夕食などの準備に行ってまいります。今日はきのこ料理ですよ」
そう言ってエキオンは受付の奥へと消えていった。
胸を撫でおろしていると、ソフィーたちが階段から降りてきた。
「あ、純也。お待たせ」
「お待たせいたしました、純也様」
二人とも少しおめかししているようだ。ソフィーはいつも腰につけている剣を今はしていない。
「いや、大丈夫。全然待っていない」
エキオンとのやりとりで、待った気がしないというのが正解だろうか。
「よかった。それじゃあ行きましょ」
るんるんと聞こえてきそうなソフィーに続いてペンションを出た。