エピローグ
グレイニーさんは、もう一泊してノッキオをいい思い出にしてもらいたいと言っていたけれど、すぐにこの場を離れたかったので、その提案を断った。
ソフィーとハリエットからも特に異論はなく、荷物をまとめ、馬車に積み込んだ。
「本当に申し訳ございませんでした」
深々と頭を下げるグレイニーさん。
「いえいえ、全然大丈夫ですよ。また近くにきたら寄りますから」
「ぜひお待ちしています」
「私もノッキオにまた寄りたいと思っているわ」
剣をもらって上機嫌になっているソフィー。
ハリエットはもう荷台に乗っている。
ソフィーが乗り込んだのを確認すると、俺は運転席に着く。
ウーマとウーマツーはさっき、お詫びのしるしにもらった人参と全く同じ成分と味がする人参きのこをむしゃむしゃ食べていたので元気満々だ。
手綱を手に取ったその時だった。
「待ってくださーい!」
女の子の声が聞こえた。
遠くから走ってきた馬車の荷台から顔を出している人が言っているようだ。
ソフィーとハリエットも聞こえたのか様子を見ている。
「よかったー。追いついたぁ」
俺らを呼び止めた女の子はヒッチハイクでここまできたのか、馬車のおじさんはにこやかに去っていった。
「お久しぶりです。セリーナです。私もお供させてください!」
ぺこりとお辞儀をしたのはセリーナだった。
「ちょっとだめよ。私たち三人の旅なんだから」
顔を出したソフィーが言う。
「私はヒーラーとしての能力もありますし、薬学についても知識があります。きっとお役に立ちます。純也さん!」
俺としてはあまり連れて行きたくない。
それはこの旅が普通のいわゆる冒険ではなく、逃避行だからだ。
今回のノッキオでも望まない展開になったし、今後もどんなことになるかわからない。
しかしここまで来てしまっているという事実もあるし、ヒーラーというのは提案として悪くない。
「ハリエットはどう思う?」
他の意見も聞いてみようと思って声をかけた。
「私は賛成です。セリーナさんが加われば、バランスがかなり良くなります」
「そうか、ハリエット。よし、セリーナ、乗れ」
「ちょっと、純也! なんでよ!」
ソフィーが慌てている。
「ハリエットが言ったことが全てだ」
「なんでよぉ。これじゃあ楽しい純也との旅に全然ならないじゃない」
「どういうつもりで旅してんだよ」
ソフィーとやりとりをしている間にせっせと荷物を積んでいるセリーナ。
「ちょっと! 勝手に入ってこないで!」
「純也さんが乗れって言ってくれたので勝手ではないです」
ばちばちやっちゃっている。先が思いやられる。
「ソフィー。今回の件も考慮すると、やっぱりバランスは大事だ」
「わかったわよ」
不満げなソフィーは頬を膨らませている。
能力としてはバランスがいいが、相性が悪いかもしれない。
「じゃあソフィー、助手席に座るか?」
そう俺が声をかけると、ソフィーの目がきらりと光ったように見えた。
「え、いいの!?」
「邪魔をしなければな」
「しないわよ」
急いで助手席に移動してくるソフィー。
そんなにもその場から離れたかったのだろうか。
セリーナは「ずるい」と言っていたけれど、新参者だ。まあ先輩に譲ってやってくれ。
最後までやりとりを見ていたグレイニーさんに挨拶をすると、俺は手綱を持った。
ウーマとウーマツーに鞭を入れ、馬車を走らせる。
イミゼスとアギレックもお見送りに来ていくれていた。
いろいろあったけれど、笑顔で手を振ってノッキオの町を出た。




