もう一つの事件
エキオンの襟元を掴むと、俺は一気に山を下りた。
引きずられるエキオンは「痛い痛い」と言っていたけれど、置いていく訳にもいかないし、情けをかける気もない。
俺は見落としていた。泥棒とロープを切った奴は同一人物だと決めつけていた。勘違いしていたんだ。
ペンションに辿り着くと、自分の工芸品を大事に撫でるアギレックがいた。
グレイニーさんも家宅捜索を終えていたようなので、エキオンの身柄を受け渡す。
お礼もそこそこに、すぐに俺は自分の部屋を確認する。
「くそっ!!」
荒らされていた。
俺の声を聴いたグレイニーさんが駆けつけてきた。
「こ、これは。またもや泥棒ですか!?」
それには答えず、ソフィーたちの部屋も確認する。
鍵はかかっていなかった。つまりそういうことだろう。
中を確認すると、案の定俺の部屋と同じように荒らされていた。
「エキオン! ロイド眼鏡の男の客は何号室だっ!?」
二階から声をかけると、弱々しく「二〇四号室です」と返ってきた。
すぐに二〇四号室の部屋のドアノブをひねったが、鍵がかかっていた。
俺はドアを思い切り蹴っ飛ばし、壊して中に入った。
窓が開いており、カーテンが風になびいていた。
誰もいない。何もない。もぬけの殻だ。
しかしベッドの横のサイドテーブルに一通の手紙があった。
封を開けめくって確認すると「また会いましょう」と書いてあった。
俺はその手紙をくしゃくしゃに握りつぶした。