犯人②
「お前が容疑者と仮定したら後はもう簡単だったよ」
「……」
エキオンはただ地面を見ているだけで、何も言わない。
「井戸に飛び降りた際のクッションは、大量の綿きのこだろう? まさか捜査している俺に食わすとはな」
反応はないが続ける。
「お前は現広場がメインになってから店を出したと言ったな。その財源は旧広場の井戸に投げられたコインじゃないのか?」
「……っ!?」
エキオンが少し反応した。
図星だったようだ。
「旧広場の井戸を下りたが、そこに投げられていたはずのコインが一枚もなかった。つまりこの抜け道を知っているお前だけがあのコインの回収ができる。逆に言えば、お前以外がコインの回収をしていたら、横穴があると知られていたはずだ」
実はこれは欺瞞だ。
コインが回収された後に横道ができてエキオンがそれを知った、というパターンがある。
しかしエキオンを追い詰めるために、それはないものとする。
「経営手腕ではなく、臨時収入で出来上がったビジネスなんてすぐに崩壊する。だから盗みをしたんだろう? だから俺がお金を落としたという嘘に食いついたんだろう?」
「う、噓だったのか……」
今の今まで信じていたのだろうか。
「嘘に決まっているだろう。どちらにしたって水が溜まっている抜け道を進むことなんてできないけどな」
「水が溜まっている?」
「井戸の話だよ」
「え? 枯れているのでは?」
エキオンはきょとんとしている。知らなかったのだろう。
知っていたら、お金を回収しようなんて思わないもんな。
ん? あれ? なんだ? 違和感がある。
おかしい。何かがおかしい。計算がどこかずれているのか?
エキオンが井戸に水が溜まっていることを知らなかった。だからこそ、俺の嘘に騙されて、ここまで来た。
そうだ。何が間違っている? それでいいだろう。
いや、間違っている。うん、間違っている。おかしいのはやはりここか。
水が溜まっていることを知らなかったというのはおかしい。
朝俺は誰も気が付いていないと判断してしまったが、エキオンはそれを知っていなければおかしい。
俺を井戸に閉じ込めた犯人、ロープを切った人物がエキオンだったら、俺が這い上がってきた方法を知るために井戸を確認するはず。
そうすれば水が溜まっていることを知る。
その確認をしなかったということは、エキオンはロープを切っていない。
「エキオン、俺が井戸に下りことを知っていたか?」
「いえ、知りませんでした」
「ロープを切ったか?」
「なんのです?」
くそっ! 見落としていた!