犯人①
用事を済ませると、一旦ペンションに戻る。
これからのことが重要だ。
「もうお帰りになられたのですね」
「ああ、調べていたら、お金を旧広場の井戸に落としてしまってね。結構な額だからどうにかしないと……」
「あらあら、それは困りましたね。何か梯子やロープがあればいいのですが……。用意いたしましょうか?」
「頼めますか?」
「ええ。もちろん。それではお部屋でお待ちください」
「ありがとうございます」
俺が頭を下げるとエキオンはペンションを出た。
その数秒後、俺もペンションを出る。エキオンの後をつけるためだ。
そう、今回の事件の犯人はエキオンだ。
エキオンはペンションの裏に回ると、道なき道の山を登り始めた。
何のためらいもなく、歩きなれたように進んでいる。
一定の距離を保って木の陰に隠れながらエキオンの後ろを進む。
大きな岩のところでエキオンが止まった。
あたりをきょろきょろと確認すると、岩に立てかけられていた木の板を動かした。
急いでエキオンの元へ向かう。
「なるほど。ここが旧広場の井戸からの抜け道の出口ですか」
「ど、どうしたのですか!? お部屋にいたのでは!?」
明らかに動揺しているエキオン。
「ふん。お金を落としたというのは嘘だ」
「う、うそ!?」
戸惑う様子のエキオン。
「そう言えばお前は井戸に向かうだろうと思ったからな」
「な、何でそうなるのですか? 私は梯子やロープがないか探していただけです」
エキオンは全くもって無駄なのに、そーっと板を戻して抜け穴を隠している。
「こんな所にか?」
「ええ。悪いですか?」
「まあいい。でも後で調べればわかることだぞ。ここが旧広場の井戸からの抜け道だってな」
「そ、そうなのですね! えーたまたまです。知りませんでしたぁ!」
急に嘯くエキオン。
実に憎たらしい。
「それはあり得ない。あの日のお前の行動を考えるとお前以外犯人はいない」
「な、なぜそうなるのです!?」
「ここは旧広場の井戸よりも高い位置にある。あの日旧広場に集まった人たちはお前を除いてみんな下から上がってきた。しかし犯人のお前は井戸の抜け道を通って山を下りてきた」
「いえいえ、私のペンションは旧広場よりも上にありますから。それに犯人は抜け道を通って森に進んでどこかへ姿をくらましたのかもしれません」
「だったらあの時お前が、井戸が抜け道になっていると言ってくれれば俺の連れが捕まることもなかったじゃないか。言えなかったのだろう」
「だから知らなかったのですよ。たった今、井戸に抜け道があって、ここがその出口だって知ったのですよ」
なかなかむかつく奴だ。
「そうか。それなら犯人ではないんだな」
「ええ、もちろん」
「だったら家宅捜索は問題ないな?」
「え?」
「お二人さん、よろしく!」
俺の合図でグレイニーさんとアギレックが木陰から出てきた。
「エキオンさん、お家を調べさせていただきいます」
「てめぇ、家から俺の商品が出てきたらただじゃあ置かないからな」
そう言うと二人は山を下りて行った。
「この町の人たちは良いか悪いか、状況証拠でものを進めるんだ。あんたが知らないと言っても、事実として井戸の出口に来ている。それだけで十分なんだ」
さっき俺はグレイニーさんの所へ行き、捜査の結果と今後の方針を話した。
その場にいたアギレックもその話に食いつき、二人に協力してもらった。
伝えたことは簡単なことだ。
まずは、水を満たした旧広場の井戸を見せた。
横穴があるという話にグレイニーさんとアギレックは半信半疑だったが、横穴があると仮定して水が溜まっているということは、もう片方の出口はこの井戸よりも高い位置にあるといういことになる。
そうなると、あの日山を下りてきたのはエキオンのみ。容疑者に浮上する。
さらにそこでエキオンが抜け道の出口を知っているという行動を取れば状況証拠がそろう。
状況証拠でソフィーとハリエットを捕まえたのだから、他の状況証拠を示せばいい。
あとはソフィーとハリエットにしたように強引に捜査をしてもらうだけ。
予想通り、人権の侵害も気にせずペンションを捜査しに行った。
「くそぉおお!!!」
地面にうなだれるエキオン。




