夕食
エキオンの出す料理はすべてがきのこだった。
きのこ嫌いがここに泊ることはまずもって無理だろう。
「こちらが綿きのこのスープです。今日は作り過ぎてしまったので、おかわりは自由ですよ」
てへ。みたいな顔をしているけれど、エキオンはれっきとしたおじさんだ。
ただ味はどれも悪くない。むしろ美味しい。
牛きのこのステーキは、まるで牛肉のステーキのようで感動した。
しかも米きのこも白米と何ら変わりはなく、海老きのこのフライはあたかもエビフライのようで、ホタテきのこのソテーはさながらホタテのソテーで、ステーキにかかっているソースに入っているマッシュルームはもしやマッシュルームなのではないかと疑いたくなるくらいだった。
知らない料理もあった。汗きのこのドリンクや、耳きのこの漬物、紙きのこのすりおろしがかけられた羽きのこの和え物、最後は紐きのこのアイスだった。ここらへんはまあまあだった。
「お口に合いましたでしょうか?」
「ええ。すごくおいしいです」
素直に感想を伝えた。
ふと見渡してみたが、この食堂には俺しかいない。
二人は今頃何を食べているのだろうか……。
食事を幸せと思うと同時に二人の顔が浮かんでくる。
「ありがとうございます。でもお客さんはなかなかこの町の上までは上がってきませんので、なかなか辛いものがあります」
二人のことを考えたいのにエキオンが話しかけてくる。
「そ、そうですね。思い切って現広場の方で出店したらどうですか?」
適当なアドバイスを送る。
「それが私は店を構えるのが遅かったので、下にはもう空きがないのですよ」
それからエキオンがだらだらと話始めた。
心の中で何度も「知らんがな」と言ったけれど、要約するとこうだ。
旧広場がメインだったころは後発で店を出した人たちは下に追いやられていた。知らんがな。しかし井戸が枯れ、現広場がメインとなると立場が逆転し、後発組は先発組の下での出店を断固拒否。知らんがな。どんどん先発組は廃業に追い込まれた。知らんがな。そんな中、エキオンは後発組よりも後発で、この先発組のいなくなった地に店を構えたとさ。まじで知らんがな。
それだけ話すと満足げに食器を片付け始めた。
やっと解放され、事件についてこれで考えることができる。
とにかく明日には片づけたい。どうにかしたい。
井戸に横穴とその先の出口があるということがわかったので、状況証拠での容疑は二人だけに限ることはできなくなる。そうなればとりあえず戻ってこられるだろう。
それにもしかしたら、俺が井戸に水を溜めたことによって反対側の出口で水が溢れていて、場所が特定できるかもしれない。
腹も満たしたし、あとは湯船につかって体を温めよう。風邪を引いたら捜査も何もない。自分が動けなくなったら、今辛い思いをしている二人がもっと辛い思いをすることになる。
しっかり睡眠もとって、万全の態勢で問題に挑もう。井戸だけに。