冤罪
「ちょっと何よ!」
腕を掴まれたソフィーは、状況が理解できず眠気眼で抵抗している。
無理もない。俺自身もよくわかっていない。
いつでも冷静なハリエットも困惑している様子だ。
「おまえらだろ! 俺んとこの商品を盗んだのは!」
二人に怒鳴り散らしている、窃盗の被害者はあのアギレックだった。
「何のことを言ってるのかさっぱりわからないわ」
気の強いソフィーは負けじと対抗する。
続々とやじ馬が旧広場へ上がってくる。
「すいません。この二人は俺の連れなんですよ」
二人の元へ駆け寄る。
「あ? ああさっきの兄ちゃんか。こいつらはお前の連れなのか?」
「ええ。俺が買い物している間ここで待っていてもらったんですよ」
「ちょっと純也どういうことなの?」
ソフィーが訴えかけるように言う。
隣にいるハリエットも不安げな表情だ。
そこで事の顛末を二人にも話した。
現広場で泥棒が現れ、アギレックの商品を盗んで逃走。
旧広場まで追いかけたら姿を消していた。
「状況から見てこの二人のどちらかだろう」
アギレックが言う。
「違うわ! 私じゃない!」
「私でもありません」
ソフィーとハリエットが無罪を主張する。
それに関しては俺も同意。
「この二人が犯人ってことはあり得ない。それに盗んだものもないじゃないか」
アギレックの冷静じゃない判断に俺も頭に血が上る。
「ふんっ。そんなものは知らない。逃げきれないと思って壁の向こうにでも投げたんじゃないか? 何にせよ代金と慰謝料はしっかりよこせよ」
「おかしいじゃないか! 状況証拠しかないのに決めつけるのは!」
「何がおかしい。それ以外考えられないだろう」
俺とアギレックの言い合いが過熱する。
騒ぎに気が付いたのか、エキオンが旧広場へ降りてきた。
「どうされました?」
不安そうな顔をしているエキオンにアギレックがまるで俺たちが犯人のように説明をするので、再び「違う!」「お前らだ」の押し問答が始まった。
「わかりました。とりあえず二人には話しを聞かせていただく必要があります。」
俺たちの言い合いに一応の終わりをつけたのはグレイニーだった。
しかしここでいう二人とはソフィーとハリエットのことだった。
いわゆる任意同行っていうやつだ。
「こいつも連れて行けよ」
アギレックが俺のことを指さして言う。
「状況証拠で二人を連れて行くのであれば、俺を連れていくことは感情的であり一貫性に欠けている」
「は? 何言ってんだよ」
「状況として俺は犯人を追いかけていたから無実だ。状況証拠を基に二人に疑いをかけているのであれば、二人が俺の連れだろうが俺を同じようには扱えない」
「ふんっ。まあいい。おいグレイニー。しっかりこいつたちから話聞いておけよ」
アギレックがそれを捨て台詞に旧広場を離れていった。
「純也どうしよう。私がわがまま言ったからこんなことになっちゃった……」
涙ぐむソフィー。
「わかっている。二人が犯人ではないことを俺が証明する。でもとりあえず、今の状況は良くない。だからとりあえずグレイニーさんの所へ行って無実を訴えていろ」
「わかりました」
ハリエットが頷く。
「純也ぁ」
ついに泣き出すソフィー。
ハリエットが支えグレイニーに連れていかれる。
それを確認するとやじ馬は解散していった。
「大変なことになりましたね」
エキオンは最後まで残って俺を待っていてくれた。
「まいりましたよ。はあ」
「とりあえず夕食を用意しておりますので、エネルギーでもつけてください」
「そうですね。そうさせていただこう」
でもその前に確認しておきたいことがある。
「ちょっと風に当たってから帰ります。先に行っていてかまいません」
「そうですか。遅くならないようにしてくださいね」
エキオンがペンションに戻っていった。
旧広場には俺一人になった。
それを確認すると、頬をとぱんぱんとたたき、ソフィーとハリエットのために一肌脱ぐ覚悟を決めた。