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忘却の彼方への旅  作者: JunJohnjean
第1章 信太
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若い人たち



4(2)


 トウは毎夜十時過ぎに帰ってくる。五日目の夜、

「明日、あるところに連れて行ってあげるよ。」とトウはやにわに提案する。

「どこ?」

「明日の楽しみだな。」

「わかった。」と信太は言って寝床に就く。


 次の日、昨日トウが連れて行ってくれると言った場所に向う。それはディスコテックで中に入ると小さなダンスホールという感じだ。薄暗いので瞳を凝らさなければならないが、二十代前後の若い人たちが真ん中にある空間で踊っている。その周りに幾つものテーブルがあり他の若い人たちが座っているのが徐々に見えてくる。

 流行と思われる音楽が聞こえていて、各人、自由にダンスをしている。ところが、チークダンス用の音楽が流れると、潮が引けたように二、三組のカップルが踊るのみで、他の人はテーブルで雑談や踊っているカップルを眺めている。

「どう、誘ってみたら。」とトウは信太に促す。

「ええ?」と信太はためらう。

 とにかく、経験がない。それでも、やってみようかと意を決して誘ってみるが、なかなか一緒に踊ってくれる女性がいない。これは誘い方がまずいのかと思ってトウのほうを見ると、丁度、女性に声を掛けているところで、あれよあれよという間に彼女を広間の中央に連れて行くではないか!


 その後まもなく、信太はこれから旅を続けるのに十分な金銭を所持していないので、この国で仕事があればしてもいいなと思い始める。トウと会った駅前のカフェ&レストランに足繁く通うのだが、数人の日本人の一人に声を掛けてみると働き口があると言ってホテル名を教えてくれた。早速、当ホテルに出向くと皿洗いの仕事が見つかった。仕事は料理人が行き交うキッチンルームであるが、通路を歩いていると一人の男性が大きなゴミ箱を押してこちらにやってくる。外見と動作ですぐに日本人と分かったので、なんのためらいもなく言葉をかける。

「こんにちは。」

「こんにちは。ここで働いているの?」

「ええ。数日前から、皿洗いをやっています。」

「皿洗いよりもごみ捨て係りのほうがよかったのに、楽だよ。」

「そうですか。知らなかったものですから。」

 その後、「あきら」という名前を知り、フィンランドに十年滞在。歳の頃は三十代前半で、何がしか頼りになるお兄さんという感じだ。


 ある日のこと、 ―

「信太、ここは天国みたいな国だから、長くいると阿呆になる。」とあきらは突然言い出す。

「そうですか。」

「ここでは楽しむことができるし、働いておれば生活に困らないが、いつの間にか、年を取って自分のやりたいと思ってきたことができなくなる。」

 短い言葉であったが、フィンランド滞在中、信太の耳朶から離れなかった。


 一方、トウは一時フィンランドに寄っただけで間もなく帰国するが、その前に信太は旅に出発することを決意する。

「これから、又、旅を続けるよ。」

「いつ?」と驚いた様子でトウは尋ねる。

「二週間後だ。」

「そうか。」

「アパート代は一人で大丈夫?」

「もうすぐ日本に戻るし、それまで十分あるよ。」


 二週間後、二人は日本での再会を約して、信太はスウェーデンのストックホルム行き長距離バスの車中の人となった。


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