ジェノヴァ ー イタリア
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翌朝、信太はミラノ郊外の道路脇でヒッチハイク。一台の車でスムーズに目的地である北西イタリアの港湾都市に到着する。
「市内には行かないのでここでお別れだが、そこの高台からジェノヴァの街全体が見渡せる。又、この道を真っ直ぐ行けばフランス・イタリアの国境だ。」と懇切丁寧に車の人は教えてくれる。
高台に足を運ぶと眼下に大きな港町が眺望される。濃紺の海と幾つものクレーンが立つ港と中世風の街並みとが渾然一体となっている。通説ではクリストファー・コロンブスの出生の地である。又、ジーンズの生地・布地はここジェノヴァから各国に輸出された。ジェノヴァは当時の中世フランス語でGENEであり、英語読みするとジーンとなって、複数を表す「S」が語尾に付けられジーンズとなったという。
信太はこういった大きな町に入ってその後ヒッチハイクのために郊外の道路を探すのは交通機関に疎いこともあり、この高台からフランスのマルセイユまで遠乗りを決心する。車が直ぐに止まり、かなり年配と思われる人が車窓から顔を覗かせる。
「これからマルセイユまで行くけど、どう?」と信太に尋ねる。
この日、二度に亘って目的地まで直行というのは幸運と言うしかない。仏伊国境はパスポートを見せるだけで難なく通過。左手には紺碧海岸が続き地中海が広がっている。暫くすると、車の人が今、モナコを通過中と言う。信太はモナコという国名は聞いたことがあるが、どこに位置しているのか知らなかった。
「カジノの建物はあれだよ。」と言って指し示す。
「豪華な建物ですね。」と信太。
「カジノは息抜きや娯楽程度にはいいが、はまる人がいるからな。」
「どうしてでしょうね?」と信太は尋ねてみる。
「アルコール中毒とかあるけど、一度、脳がその快感を覚えると本人が気付かないうちに依存症に罹るんだろうね。本人は大概、自分を中毒と認めないけど、家族の遺産まで食い潰し、自己破産や自殺まで追い込まれる人が後を絶たない。国や自治体の管理と本人の自覚でしか制御できないだろう。」
あっと言う間にモナコ公国を走り抜け、ニース、カンヌ、トゥーロンを通り過ぎて、マルセイユに近づく。
「今日は快晴でイフ島がよく見えるよ。」
「あのいかめしい城のようなものが立っている島ですか?」
「そうだよ。周りの島もよく見えるね。」
「アレクサンドル・デュマのモンテ・クリスト伯は翻訳ですが、高校生の時に読みました。」と思い出したように信太は言う。
「ほお。」
「昔はガンクツ・キング(巌窟王)と言われていました。」
「ガンクツ?」
信太は「不屈の」と言いたいのだが英語の単語が出てこない。「ネヴァーギブアップ!」で急場をしのぐ。
「モンテ・クリスト伯は復讐の鬼と理解しているが、翻案によって意味合いが変わるのはよくあることだね。」
復讐の鬼と言えば、ネガティヴな響きがあるが、不屈の闘士と言えばポジティブな思考に変わる。
夕方のまだ明るい時間に車はマルセイユの中心にある小高い丘の麓に着いた。この丘の上に中央鉄道駅がある。信太は車の人に丁寧に礼を言って駅構内の両替所に向かう。その後、フランスフランは十分あるので安心感を抱いたのか、ユースホステルに着くと受付の人に笑顔で話し掛け、余裕綽々の態で宿泊カードに記入している信太の姿は誰の目にも頼もしく映ったに違いない。
ジェノヴァ ー 海、クレーン(起重機)、旧市街




