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忘却の彼方への旅  作者: JunJohnjean
第6章 タイムトリップ
45/75

地獄の門



4(3)


 壁の向こう側に行って見渡すと周りの物は薄暗い影しか見えない。信太は振り返って今通ってきた壁を見るとそれは岸壁を思わせるものがあって、見上げるとその頂上が天空に溶け合って何も見えない。


 女ボスが歩き始めるとハイジも可愛いちゃんも彼女に従ってゆく。彼は女ボスに早足に近づいて尋ねる。

「道を知っているん?」

「ええ、知っているわ。カプセルにプログラムしておいたから。」

「でも、初めて行くんだろ、その地獄の門へ?」

「在るものはプログラムするだけで、充分。」


 信太には女ボスの言ったことが分かったような分からないようなものであるが、道を進むとうっそうとした森林が広がり益々光が失せていく。突然、台地に出て、眼前には漆黒よりも黒いと思える空間が広がっている。光もない暗黒色とはこのことを言うのだろうか。その中央に四角いものが見える。さほど大きくはないが不気味な黒光りを発している。

「ここからではまだはっきり見えないわね。」と女ボスが言う。

「もう少し行ってみましょうよ。」と可愛いちゃん。


 十数歩、足を進めると門であるというのは明らかだ。この時、信太はロダン美術館の中庭で見たブロンズの門の記憶がよみがえる。彫刻家、ロダン作の門の上部にはミニチュアの「考える人」があり、門の壁面には苦しむ人々がへばりついているように見えて、気味が悪いので、そそくさと立ち去ったのを彼は思い出す。


 彼は今、前方の地獄の門に向かう多数の死者の異様な光景が目に浮かんでくるようで、思わず、立ちすくんでしまう。

「どうしたの?」とハイジが信太を心配して尋ねる。

「足が動かないんだ。」

「これ以上進めば吸い込まれるような感じがするね。」と女ボス。

「今日はこのぐらいにして帰ったほうがよさそう。」と可愛いちゃん。

「そうね。このゲームはこれで止めにしようか。」と女ボスは言って四人は元来た道を戻り始める。


 その時、誰も後ろを振り向いて「地獄の門」を見るものはいない。拷問者か呵責者が後ろから追い駆けて来るような気がしたからである。


 女ボスがフィレンツェはダンテの町と説明していたが、ダンテが実際、地獄の門に刻んだというのは次の銘文である。

「この門をくぐる者は一切の希望を捨てよ。」


挿絵(By みてみん)

地獄の門の考える人 ー ロダン作


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