並行世界
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次の日の夜、約束の午後十一時に玄関を入ってすぐにある長椅子で彼女らを待っていると、階上からドヤドヤと降りてくる複数の足音が聞こえる。彼は彼女らの服装を見て一月の外出には軽装過ぎはしないかと心配する。
「先に調理場に行って用事を済ませるわ。信太も来て。」と女ボス。
他の二人も後ろから付いてくる。
「貯蔵室に重い荷物があるのでそれを取りに行くの。手伝ってね。」と女ボスは信太に頼む。
「お安い御用だ。」と、彼は腕っ節には自信がある。
貯蔵室は調理場から階段で降りてすぐのところだ。彼は階段半ばまで降りると何かが思い出される。
「はてな?ここは一度、来たような気がする。」と信太は呟く。
「そうよ。信太は一度、ここに来たことがあるの。」と信太の独り言を耳にした女ボスは彼に言う。
「そうだ。ウィリアム・テルを見に行ったんだ。」と急に記憶が蘇ってくる。
「そうなの。今日のゲームは地獄の門を見に行くことよ。」
「ええ!そんなのあった?」と思わず、信太は叫び声を上げる。
彼はウィリアム・テルは実在の人物であったと分かったが、まさか地獄の門が実際に存在しようとは思ってもみない。
「そうよ。地獄の門を見に行くのよ。町の名前でも土地の名前でもないわ。」
「肝試しというか、その地獄の門を見ただけで、恐怖で震え上がるというものなの。」とハイジが言葉を継ぐ。
「その地獄の門というのは開いてるん?」と信太。
「私たちには開かないわ。死者のみに開いていて私たちには閉ざされたまま。」と女ボス。
「前回、言っていたけど、並行世界というのが無数にあって、その一つの世界ってことだね。」
「ううん。これとそれとは違う。私たちは生きてるんですもの。私たちの科学ではとてもじゃないけど、死の世界へ一度行ったら戻ってくる方法は無いわ。とにかく、その地獄の門、つまり、入り口を見るだけ。」
四人の顔にはありありと緊張が見て取れる。信太はゲームと言えども危ない橋は渡りたくないが、好奇心も手伝う。又、前回のゲームもなんら支障はなかったということで安心感もある。冒険してみようかという気になってくる。
「どう、信太、私たちと行く?」
「本当に門が急に開くということはない?」と信太は念を押す。
「ないわ。開けば私たちが死んだ、亡くなった時だけ。それに、なぜ、地獄へ行かなければならないの?悪いこともしてないのに。」
「だけど、地獄の門に近づいたら鬼か何かわけも分からないものが出てきて、手や腕を掴まれて引っ張り込まれはしない?」
「それは考え過ぎ。私たちは生きているのよ。それに近づきはするけど門前で悪魔を呼んだり門を触ったり押したりはしないわ。」
そう女ボスが言うとハイジと可愛いちゃんが恐怖を退けるような笑い声で賛同する。
信太は門を見に行く決意をすると、彼自身から何のためらいもなく衣服を脱ぎ始める。ハイジは彼に背を向けて、他の二人はハイジを取り囲むようにして脱衣をするが、この三人の裸身はルーブル美術館の一角で見た裸体画に瓜二つと前回、ウィリアム・テルを見に行く時、思い出されなかったものが、今回、鮮明に呼び覚まされる。それはジャン=バプチスト・ルノー作の「三美神」である。
信太は三人のほうへ向って行く。
「はい、カプセルよ。」とハイジが振り返って彼に手渡す。
四人は同時にカプセルを呑み込み、壁に向って歩き始める。
並行世界




