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忘却の彼方への旅  作者: JunJohnjean
第6章 タイムトリップ
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地下の貯蔵室




 ある日の夜、それも真夜中と思われるが、信太は目が覚め、妙に喉が渇いたので、彼の部屋がある二階から一階のキッチンルームに下りて行く。リンゴジュースは店の主人から好き勝手に飲んでいいと言われていた。冷蔵庫の取っ手に手を伸ばした時、地下に行くドアから何やら人の声が聞こえて来る。ドアがほんの少し開いていたからである。耳を澄すと、どうも三人の女性コックが話しているような気がする。夜も遅いのに彼女らはどうしてこんなところで喋っているのだろうと彼は不思議に思えて地下に行く狭い階段を下りてゆく。彼は地下に貯蔵室があるのを知っていたが今まで行ったことがない。彼女らが信太に気付いてはっとするような様子が見て取れる。


「こんな夜遅く、こんなところでどうしたの?」と信太は尋ねる。

「自分たちの部屋で喋ると信太を起こしてしまわないだろうかと思って。」と女ボスが即答する。

「もう慣れてしまって寝続けてるよ。」と冗談っぽい言い草で応える。

「それならいいけど。」と女ボス。


 ハイジがその時、ドイツ語で彼女らに何かを耳打ちしている。

「よければ、私たちと一緒に外出しない?彼女が信太を気に入っているみたい。是非って言うのよ。」と女ボスが信太を誘う。


 ハイジが顔を赤らめたようだ。彼女が恥ずかしそうにしたのは彼には意外だった。

「どこ?」と信太。

「そうね、、、別世界って言っておこうかな。」

「ええ?別世界って店の名前?」

「そういうことにしておくわ。」と女ボスが笑って言うと他の二人も釣られて笑う。


 何か分からないことを今夜の女ボスは言うなと彼は思う。又、彼女らがぼそぼそと囁き合う。その間、彼は手持ち無沙汰に貯蔵室のあちこちに目を配る。話が終わったようだ。

「信太はウィリアム・テルって知っている?」と女ボスが彼のほうを振り向いて尋ねる。

「ああ、日本のテレビでそのウィリアム・テルの物語をやっていたよ。」

「息子の頭に置いたリンゴを撃ち落としたという説話よ。」と女ボス。

「それは有名だね。」と信太。

「それが本当のことかどうか見に行こうと思うのよ。」

「劇場に行くん?」

「いいえ、過去に遡って実際あったかどうか確認しようと思うの。」


 過去に遡ってと彼女が言うので、彼は即座に、

「タイムマシーンに乗って行くん?」と真面目とも冗談ともつかない顔で尋ねる。

「タイムマシーンじゃないけど、あるカプセルを呑むと行けるのよ。」

「カプセルって?」と彼は暫し考え、言葉を継いで、

「過去に行ったら歴史を変えることになるんじゃない?そうしたら現在に戻って来れなくなるかも知れないよ。」と真顔になって彼は女ボスに尋ねる。

「大丈夫。過去の人に全然影響を与えないわ。」


 こう自信をもって言われると彼も彼女の話に乗るしかない。

「そのカプセルって何?」

「バイオなんだけど、私たちを守ってくれる防護服みたいなもの。だけども、今着ている服を全部、脱ぎ捨てなければならないの。ここに置いておくのよ。」

「それは恥ずかしいなあ。それも、女性三人の前で。」

「このバイオはからだと異質なものを受け付けないの。」


 彼は信じていいのかどうか迷ってしまったけども、会話の成り行き上、堪忍する。それを察知してか、三人の女性は瞬く間に服を脱ぎ捨てる。その時、信太は三人の裸体の女性を前にして、どこかで同じようなものを見たような気がしたが、とにかく彼女らの全身を直視するのは恥ずかしいようでもあり、又、咎められるようでもあって、顔だけを見るようにする。


 彼女らは信太にも裸になるように促す。彼は今、現実に起こっていることが俄かに信じ難く思えてくる。冗談と思っていたのが本当に起こっているのだ。それに、西洋人というのは何の臆面もなく、又、衒いもなく脱ぎ捨てる。平気だし、慣れっこなんだと彼はそう自分に言い聞かせるしかない。彼は彼女らに背を向けて衣服を脱ぎ出すと彼女らが後ろで笑っているような気がする。衣服を脱ぎ終わって上半身をよじり後方に顔を向けるとハイジが真っ直ぐ彼に近づいて来るのが見える。彼女は彼の胸元に手を伸ばし一粒のカプセルを手渡す。そして、彼の見ている前で彼女は自分のカプセルを口の中に含む。そうすると、口と鼻から深緑色の液体が枝状に伸び出して来て、瞬く間に彼女のからだ全体を覆ってしまった。彼は驚愕の面持ちで見守っていたが、女ボスにカプセルの服用を促されてやっと正気に戻り、思い切って口に入れ、呑み込んだ。彼は胃の辺りから何かが広がるような気がして、そのものはあっと言う間に頭から足先まで覆うってしまう。他の二人も深緑色に染まっている。


「このところからテルの活躍した時代に行くのよ。カプセルにそのようにプログラムしてあるの。」と女ボスは彼に壁を示しながら言う。


 先ず、女ボスが壁の中に消え、信太はハイジに押されて壁の中に吸い込まれる。次に、ハイジと可愛いちゃんと続いて、みんな、壁の中に消えてしまった。

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