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忘却の彼方への旅  作者: JunJohnjean
第5章 ベーダ星
37/75

スターレイクとインターラーケンの町



7(2)


 タッジが夢にうなされていた早朝、先の天女が彼の住居に舞い降りた。窓は開き放たれているので、この天女は窓辺に腰を下ろし、彼の目が覚めるのを見計らっている。


 タッジは香ばしい微風を頬に感じてか、目が覚めて、天女を窓際に見る。

「あなたがどうして、このようなところにおられるのですか?」とタッジは驚きの目を見張って尋ねる。

「端的に申し上げますと、あなたは上部からの圧力に耐え得ません。」

「仰る意味はおおよそ見当が付きます。」とタッジは認める。

「あなたはもう、ベーダ星に長居されるのは無用です。」

「どうして、急にそのようなことを言われるのか分かりません。」

「あなたがこのような威圧感に苛まれると思うからです。話の続きは又の機会にでもしましょう。私は今からスターレイクにあなたをお連れします。」


 突然の天女の言明にタッジは意識が朦朧として、差し出された彼女の手に彼の手を委ね空中を飛翔する。


 彼らは朝の光に向い行く。後方にはベーダ星の二つの金色の月が並んで姿を見せている。地上に目を落すと見慣れた起伏の大地がタッジには妙に懐かしい。

「ここがスターレイクと呼ばれるところです。」と天女が告げる。

「綺麗な湖ですね。光を放っています。」とやっとのことでタッジは応える。

「湖の途中までお連れ致しましょう。あなたは私が迎えに上がるまで他惑星で過ごすことになります。あなたご自身の力でベーダ星に戻って来ることはできません。」

「なぜ私は他惑星へ行かねばならないのでしょうか。」

「あなたがこれ以上ベーダ星に住むなら無駄死にしてしまうか、罪悪感に打ちひしがれて生ける屍となるか、それよりも遠流の地で活力を見い出されたほうがよいと思われるからです。」

「でも、なぜあなたはこのようにしてまで私を庇ってくれるのですか?」

「それは長い話なのです。織姫様もご存知の事柄です。」


 この天女は正直に「私の許婚として天帝に紹介するためにあなたをベーダ星へお連れしました。」と言いたかったのであるが、これは天帝のお許しがないことには語れない。


 タッジは夢うつつで、スターレイクに足を入れるが、水温は体の温度と同じと思われ、肌触りも全く違和感がない。天女に伴われて腰まで水が来ると勢いよく彼は全身を湖水に投じた。その後、彼はもう水面に姿を見せることはなかったが、天女は湖畔に佇んで長い間、湖面を見つめていた。


挿絵(By みてみん)

スターレイク




 信太は途端に足に冷水を浴びたように感じ、茫然自失の態で辺りを見回すと先ほどの湖となんら変わりはない。湖畔には脱ぎ去った信太の運動靴が持ち主を待っている。


「おかしいな。どうして僕は湖に足を浸けたくなったのかな。」と独り呟く。


 そして、とぼとぼとインターラーケンの街の中心に歩いて戻っていると肩越しに「信太」と呼ぶ声が聞こえ、振り向くと和が急いで信太のところに近づいてくる。


「どうしたんだよ。」と和が尋ねる。

「どうしたって、、、グリンデルヴァルトで和を見失って、もしかしてインターラーケンに先に行ったかもと思って。」

「僕は一緒にインターラーケンに戻ろうと思って信太のほうへ振り向くと、信太が夜空を見上げながら夢想に耽っているものだから、邪魔してはいけないと思って、離れると前にお世話になったスイス人に偶然出会ったんだ。」

「そうか。」と信太。

「それで、その人は山小屋の主人と懇意ということもあって山小屋の奥のほうに案内され、そこで長話ししてしまったんだよ。すまないな。」

「僕は和を探したんだけど、どこにも見当たらなくって夜も更けてきたし、最終のバスだと思うんだけど、乗ってインターラーケンに戻って来たんだ。」

「僕はあれから信太が見当たらないので、結局、ホテルを見つけて寝泊り。それで、今朝、一番のバスでここまでやってきたわけだよ。で、信太のリュックサックはどこ?」と和は信太に尋ねる。

「ユースホステルで預かって貰ってるんだけども、今から取りに行かなくっちゃ。」


「じゃあ、今日は二人でインターラーケン見物と行くかな。」と和が言うや否や、彼らの大きな笑い声が早朝の街角に響き渡った。


挿絵(By みてみん)

インターラーケンの町


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