シュッヘの野望
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その後まもなく、宮殿の「水の間」と称される広間で教育の代表者が集まり、総会が開かれた。これにはタッジとシュッへも招待されるが、初めてタッジは宮殿に赴く。豪華絢爛な御殿というよりも荘重な趣を呈していると言えよう。広間には恰幅のよい臣下とその側近が襟を正して着席している。そんな中で、何かしら違うものが感じられるのが、天女の姿であり彼女らは宮殿のそこかしこに一塊になって談笑している。彼女らはまだ成年にも達していないように見える。その中の一人に、タッジはどこかで見た天女という不思議な感覚に陥るけれども、彼は天女を見るのが初めてだ。でも、先方も彼の視線に気付いてか、恥じらうような乙女の微笑を彼に送る。しかしながら、彼はこれは軽い挨拶ぐらいであろうと思って気に留めなかった。なぜなら、天女は天帝に仕え、天帝の指示に一切服従なのであるから自由な行動は彼女らにはとにもかくにも許されない。
総会は少し儀礼的過ぎてタッジの好みではないが、他惑星人との調和、つまり、文明の融合、教育の重要性を認識させるのに十分であった。彼は「水の間」を後にする際、彼の背に誰かが温かい眼差しを送って来るのを強く感じた。その後、宮殿の正面玄関の階段を下りている時、彼の後方、少し離れたところからシュッヘがテレパシーで「やあ」と声を掛けて来る。
「どうだい、タッジ、一緒に食事でもしないか?」
「いいですね。」とタッジ。
こうして食べながら先ほどの総会についての意見をお互いに交換したり、タッジは先日の授業参観の折りシュッヘが持った印象を聞いたりしたが、食事の終わりのほうで彼は気になっていたことを単刀直入に切り出した。
「あなたが多忙の身であることは百も承知ですが、定期的ミーティングはなくなって通信連絡のみになりました。経験がなく、つまり、あなたは教師として教育現場にいなくて、どのようにして私達の思いが分かるのでしょうか?」
タッジは決してシュッヘのことを悪く言うつもりはなかったが、彼の性格として自分の思いを隠し切れなかったのだろう。シュッヘはタッジの言葉を非難の意味に解釈する。つまり、教師の立場を理解することができない、又、リードしていく力量がないと。二人の間には張り詰めた空気が流れ、亀裂、確執が生じたかのように見えた。以後、彼は何かにつけタッジと距離を置くようになった。
シュッヘは結果が大事であって、良い結果を上層部に伝えることが、自分の能力と存在を引き立たせ、点数を稼げる最上の方法だと思っている。シュッヘの手柄は彼の直接の責任者に伝えられ、シュッヘからもたらされた手柄はこの責任者の手柄となってそのまた上に伝えられる。むろん、上層部はこれら、報告を喜んだのは言うまでもない。結果的にお手柄主義(成果主義)にすべての上層部は小躍りするようになる。以後、褒美と罰が定着し始める。
この単純なメカニズムには落とし穴がある。つまり、現場の教師の辛苦や努力が見えないばかりか、見落とされてしまうのである。




