タッジの仕事
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タッジは先日の委員会に参加して教育に惹かれるものがあった。時が経つにつれ、教育現場で教鞭を執ろうとの思いが募るばかりである。そこで彼は研究機関の責任者に相談することに決めた。
「私はエルク星人に会う度に彼らに直接ベーダ語を教授したいという思いに駆られます。どうしたものかと考えております。」
「それはどうしてかな?」と責任者は尋ねる。
「教育の現場では、もちろん彼らと直接、接触できるのですが、彼らにベーダ語を教えると彼らの非論理的な発言を見い出すことになると思います。それは取りも直さず、私どもの機関が望むところであります。但し、彼らも生まれ故郷である惑星から離れて過ごしているため、彼ら自身、ベーダ星の雰囲気に呑み込まれてしまいます。又、移住者という立場なので我らを前にして、何でも言い出せないこともあるでしょう。でも、彼らの感情表現は看過できません。先ず、我らの古典文学に見られる情緒的表現と比較し、検討後、満足すべき結果を得られれば、喜ばしいことだと思います。」とタッジは自分の考えを述べる。
「確かにそうだ。先人の厖大な資料を研究しても、実際、彼らとコミュニケーションをしなければ彼らの感情、生きた言葉を決して知り得まい。君の教師としての体験を通して研究成果を得たら、直ぐにも我らの機関で発表してくれ給え。」
彼の責任者はこう言って彼に教職の便宜を図った。
同じ頃、シュッヘも又、デモンストレーションの成功により、直接教育界の重鎮と会話や討議をすることが多くなるのだが、その時、教育を担っていかないかと彼らは突然、シュッヘに提案する。
「配給センターで仕事を続けることができるなら、お受けすることも可能です。」とシュッヘは応える。
その後、五人の小会合が持たれた。そこで初めて、タッジとシュッヘは言葉を交わす。
教育グループ長がみんなを前にして話を始める。
「君たちも教育長から聞いたように、我らの双肩にはベーダ星の将来が掛かっている。教育長が言う文明の衝突はないにしても、我らは高貴な文明開化を期待している。君らはそのためにも個々に、この崇高な仕事を全うして欲しい。各自、専門分野は違うが、彼らにベーダ語を教え、又、言語を通して彼らを知って貰いたい。エルク星文明を知悉していたら、彼らに合った教育方法が可能というものだが、現時点ではエルク星人に関しての過去の資料では不十分だ。既に我がベーダ星に移住した幾人かのエルク星人もいるが、彼らは完全に同化したとは残念ながら言えない。これからは集団移住民も増えることと思う。第一陣は六十七組の若いカップルだ。彼らの同化を成功させるならば、第二陣と続こう。」
更に、このグループ長は話を続ける。
「さて、タッジ君は考古学、言語学が専門だが、他の二人の教授と共にベーダ語教育に専念して貰う。但し、ここにいるシュッヘ君の専門は立体浮遊映像ということで、教育のため映像作成を快諾してくれた。シュッヘ君はエルク星人に何も教えることはないが、教師に必要な映像を提供してくれ給え。」
「宜しくお願い致します。」とシュッヘはみんなに挨拶をする。タッジはその時、妙に頭の低い人だなと思う。
「この会合はレギュラーに行われる。教育長は今後、この交流が二惑星であるベーダ星とエルク星に相互の利益となることを願っている。特に今のところ、必要なのは彼らの出欠の管理だ。授業後、速やかに出欠表を提出してくれ給え。」とグループ長は言う。このようにして、タッジとシュッヘは同じ教育界に身を投じる。しかし、この二人は教育について見解を異にしていた。
タッジは教育現場を重要視していたが、シュッヘは現場というものは仮の場としか考えられず、それよりも教育方針に則って、自身の上り詰める社会的地位こそが教育を推進させ拡充するものと信じて疑わなかった。




