老婆
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天女の衣を盗んで言葉巧みに天女に話を持ちかけた釣り人はタッジに遅れること二週間にして同惑星に生まれる。
名前はシュッへ(SCHUHHE)と言い、生まれつき体が弱い。胸の筋肉を患っているのだ。シュッへの少年時代はこの病気のせいか、どちらかというとひ弱な印象を人に与えた。しかし、物腰が丁寧で人当たりもよいとの評判だ。又、運動をしたあとは決まって、その日のうちに発熱するので万事に控えめにならざるを得ない。
若い頃、彼は不可解な夢を見た。どこだか分からないが、一度も面識のない仙女のような老婆が突然彼の目の前に現れてシュッヘに質問する。
「天守閣や摩天楼は他の惑星にあろうが、おまえはこの惑星の山頂に登ったことがあるか?」
「はい、登ったことがありますが、、、」とシュッへは応えるが、彼女の不躾な質問に面食らって老婆の顔をじっと見つめる。この老婆はシュッへが見つめることなど無視して質問をし続ける。
「そこから、下を見ると歩いている人はどのように見えるのじゃ?」
「小さくてまるで蟻が歩いてように見えます。」と一方では反感を抱きながら、又、他方では敬意を払いながら応える。
地球と同じくこの惑星にも蟻がいるのだ。
「おまえは高所から見ているので、もちろん高さが加わって立体感があるのじゃが、蟻は地面を見てしか歩かないので空間(三次元)があることさえ知らない。」
「分かります。」
「それで仮に蟻の前に障害物を置いたとする。そうすれば、蟻はどのようにその障害を乗り越えてゆくのじゃ?」
「そうですね、、、障害物を運び去るか、それとも障害物に登って越えゆくか、迂回も考えられますし、又、もと来た道を戻るということも考えられます。」と質問にシュッへは応える。
「高いところから見る人は下を歩く人を蟻のように見る。蟻の機械的な動作を観察してどのようにすれば操作できるのか、このように支配者は考えるものじゃよ。」と言うや、老婆の姿はこの最後の言葉を残して夜の闇に掻き消えてしまった。
思いも寄らなかった夢だったので、シュッヘは目が覚めてしまってすぐに眠れない。からだ中、まだ熱があるせいか、汗ばんでいる。シュッへは老婆の言ったことを反芻していたが、「自分はからだの弱さでは人に負けるが、頭脳で勝ろう」と心中密かに期するのであった。
老婆




