織姫と彦星 ー 天の川
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そこで、和の話しはぷっつり途切れてしまうが、威容を誇るアイガー北壁から視線を天空に向けると信太は満天の星に圧倒される。彼は勢い目が眩み宇宙の大海に呑み込まれるような気がした。信太は独り呟く、、、
「なんと壮大な宇宙なんだろう。それに比べて、なんと我は小さいのだろう。」
信太はまだ若いので、星辰は永遠に輝きを放つものと信じて疑わない。人間と同じように生死のドラマが繰り返されているのだとは想像だにもしない。実際、この宇宙でも建設と破壊は繰り返されているのだ。しかし、その時信太は無意識にも一瞬にして宇宙も生と死が混一していることを悟ったのだ。それはあたかも昼夜が混和しているように。もしかするとブラックホールというのは、死の世界であるかも知れない。ブラックホールはすべての物質を呑み込むのだ、光さえも。暗闇の世界だ。混沌とした世界だ。無秩序の世界だ。非物質の世界だ。二つの海流が出会うところに渦巻きの現象が発生するのは周知の事実だが、渦を巻いているところはブラックホールの入り口だ。ここから物質は呑み込まれるのだ。この内部を探索するために電子機器を投げ込めばどうだろうか。途中、これらの機器はだんだん引き伸ばされ、ついには破壊されると考えられている。破壊を死とすれば、建設は生と名付けることができるだろう。建設の息吹は無秩序から秩序へと向わしめる。宇宙はその生死を包含して存在し続けているのだ。
信太は今一度、天の川を仰ぎ見る。そうすると突然、天の川の東の方に輝く織姫の星が目に止まる。織姫は年に一度だけど、今年も七夕に彦星に逢いに行ったのだろうと思っていると、一つの流れ星が天の川を横切って行く。次いで、幾つかの流れ星が横切り、数多の流れ星があちらこちらと白い雨のように間断なく地上に降り注ぐ。そのうちの一つは、山の端まで届いたかと思うと閃光を放ってインターラーケンと思われる上空を照らすではないか!
思わず信太は和の方に振り向くが、彼の姿はそこにない。周りを見回すが、彼の姿はどこにも見当たらない。夜の帳が下りて山々の寝静まった息遣い、時折り、人々の笑い声が耳に聞こえるだけである。信太は時計を覗き込む。
「もうこんな時間だ」と小声でつぶやく。
今夜、インターラーケンのユースホステルに寝床を見つけなければならない。信太はなぜか胸のざわめきを覚えながら、足早にバスの停留所に向かった。
織姫と彦星 ー 天の川




