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忘却の彼方への旅  作者: JunJohnjean
第2章 野宿
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サモトラケのニケ ー ルーブル美術館所蔵



5(2)


 翌日、信太は地下鉄に乗って先輩宅に向かう。パリは通りに名前が付いているので、アパートを見つけるのにさほど時間は掛からなかった。

「よく来たな。遠慮せえへんでもええで。そこにでも座れや。」と先輩は信太にソファーを勧める。

「お茶でもどうや。」

 パリに来て日本茶を飲むとは思いもしなかった。

「いったいフランスで何をするつもりや?」

「パリに着いたのは数日前ですし、少し滞在してその後、南フランスを見て回ろうと思っています。」

「そうか。フランスの北部やけど日曜日に日本人仲間とドーヴィルと言ってな、ノルマンディー地方にあるんやけどリゾート地に遠足や。快晴やったらこの季節でも泳げないこともないで。お前も来んか。」

「どのぐらい時間が掛かるんです?」

「二時間ぐらいで着くわ。お金の心配は要らん。けど、昼食用にサンドイッチぐらいは持って来いや。」

 夕方にはパリに戻って来るということなので、ホステル宿泊の問題はナシと見ていいだろう。日曜日の出発を約して辞した後に、彼は海水パンツを一丁、早速購入した。


 先輩に会ったこともあって心の余裕ができたのか、今日はルーブル美術館を見学しようという気になる。信太が知っているのは「モナ・リザ」ぐらいであるが、ガイドブックを開けて読むと「ミロのビーナス」と「サモトラケのニケ」が有名とある。


 信太は当館正面玄関に入って直ぐ左手にある大広間に圧倒されてしまった。天井はとても高いし、天井画で覆われている。床、壁は大理石。又、多数の見学者が間断なく行き来している。美術館と知られるこの豪華で荘重な建物は、歴代の王家が引き続き住まいとしていた宮殿だ。ルーブル宮殿はこれら王家が逐一建て増しして現在のスケールになった。ナポレオン・ボナパルトも建物の一部の増築に加わっている。


 信太は見学者の流れに任せて大理石の階段前まで辿り着くと、正面踊り場に翼を広げた女性像が現れる。高さは優に2メーターはあるだろうか、でも、頭がない。これが「サモトラケのニケ」だ。ガイドブックではサモトラケ島の勝利の女神とあって、ニケとはギリシャ語で「勝利」を意味する。一気に階段を上がって女神像に近づく。それにしてもなぜ翼が女神にあるのだろうと疑問に思うが、天使も翼があることから、さほどおかしくもないかと自分勝手に納得する。ひとしきり女神像を眺めた後は、「モナ・リザ」が兎にも角にも見たくて仕方がなくなってくる。

 ガイドブックを再び見ると次の階にあるようなので、階段を上ってゆくと、幾つもの部屋と長くて巨大な「絵のギャラリー」という廊下が見え出して来る。彼は「モナ・リザ」をあちらこちらと目を遣って探すが、大きな建物なので、どこに何があるやら分からない。

 壁にかかった大きな絵と絵の間の椅子に腰かけている制服姿の監視員が目に入ったので、「モナ・リザ」と言うとこの監視員は鸚鵡返しに「モナ・リザ」、次に「ラ・ジョコンド」と2回言って、真向かいの部屋を指し示してくれる。フランスでは「モナ・リザ」のことを「ラ・ジョコンド」と言うのだ。中に入ると直ぐに「モナ・リザ」が目に留まる。しかし、大抵の見学者はちらっと見るぐらいで通り過ぎて行くのだ。


 その後、日本人が大挙して「モナ・リザ」を見に来るものだから、世界的に有名になったらしい。信太が見学した当時は今のようにガラスケースに収められていなかったし、柵も設けられてなくて、手を伸ばせば容易に触れられるところにあった。


挿絵(By みてみん)

サモトラケのニケ ー ルーブル美術館所蔵

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