パリ中心部 ー オペラ広場
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シャンゼリゼ大通りを真っ直ぐ歩いてロータリーのところまでやって来た信太は昼近くになったことに気づき腹の具合を考え出した。残された金銭で贅沢な食事を取るには程遠い。聞き伝えによるとポール・ロワイヤルにある学食が安価。その上、学生証を提示しなければチケットが買えないということはない。とにかく善は急げでパリの交通の中心地、シャトレまで地下鉄で行き、そこでポール・ロワイヤル駅へ行くのに地下鉄を乗り換える。
信太がパリの地下鉄で気になるのは黄色い車両が全五車両のうち、真ん中を占めていて「なぜだろう」という素朴な疑問だ。プラットホームの真ん中ぐらいで考えを巡らしていると電車がやってくる。彼は勢い黄色い車両に乗り込んだ。乗車するや否や、何か奇妙な雰囲気が彼を捉え乗客らも彼を物珍しそうに見やっている。何か場違いのところに来てしまったという感覚が彼を支配する。そうすると車掌とおぼしきユニホーム姿の人が彼を見つけて、「ここはあなたの車両ではない。隣の車両があなたのだ」というジェスチャーをする。素直に車掌の指示に従うが、車両を換える際、ふと、車両の横腹に「1」という数字が見え、乗り換える車両は「2」という数字だ。つまり、一等客車と二等客車である。彼は三等客用車両がなくて嬉しく思った。彼にしてみれば三等というのは、「落ちるに落ちた」という感じがしたのだろう。又、「自尊心」が許さなかったとも言える。彼はフランスでは人は皆平等、と学んだのでフランス社会にも階級的なものを発見して動揺を隠し得なかった。
ポール・ロワイヤル駅で下車した信太は直ぐ駅前に学生食堂と思われる建物を見つける。学生らしい若者が大勢その建物の中に入ってゆく。彼も人の流れに沿って入って行くとたくさんの人がテーブルの前に座って雑談しながら食べている。彼は受付のところに行って食券を買い、彼ら学生の真似をして列を作り、野菜、主食、デザートと皿をお盆に乗せて空いている席に着く。周りを見渡してもアジア人は全く見かけられない。この日の食事は美味しい。そして、次の日も、その次の日もこのポール・ロワイヤルの学食に行くのだが、だんだん味に慣れてくると何か物足りなさ、単純さ、そっけなさがとうとう彼を飽きさせてしまった。又、食事中、近くにいるフランス人学生と喋ったらいいのだが、彼らは彼らで仲間同士で喋るのに夢中である。
そんなある日、彼は学食よりも高級なレストランで大枚をはたいてもっと美味しいものを食べようと決心する。思い立ったが吉日、レストランに直行と相成るが、なんのことはない、普通のレストランなのだ。そこで出されたメニューが読めない。あてずっぽに注文して食べた。この瞬間、信太は一種の安らぎを覚える。食べた肉が何であったか知らない彼であったが、その後の足取りは軽くパリの街路を散策してホステルに向う。それはもうたそがれ時だった。
パリ中心部 ー オペラ広場




