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09 分岐

マハの部屋をノックする。

「マハ、何の用?」

「お嬢様。お一人ですか?」


 戸口に出て来た。マハが珍しく遠慮したように言う。


「人払いが必要?」


「はい、とてもとても重要なお話があります」

 声がいつもより真剣で、心なし彼女の顔が引きつっている。


「わかったわ」


 すぐに人払いをしてマハの部屋に入ると、マハが素早くドアに鍵をかける。


「どうしたの。マハ?」


 珍しくマハがとても慌てていた。それに何かに怯え、震えているようだ。


「アゼリア、やっと会えた」


 その言葉に驚いて振り返るとユーリがアゼリアの真後ろに立っていた。


 アゼリアは驚いて思考が停止し、反応が遅れた。


「え? どうして……」


 ユーリがアゼリアの前に跪く。


「アゼリア、済まない」

 そう言って頭を下げる。


 何が何だかさっぱりわからないが、そこまで王族に言われて話を聞かずに部屋を飛び出すわけにもいない。


 それに真っ青な顔をしたマハがドアを塞いでいる。

 閉じ込められた。



 アゼリアは落ち着くために、一つ深呼吸をする。


「頭を上げてください。それより、なぜ、こんな夜更けに? お城の方は大丈夫なのですか?」


「城は抜けてきたが、問題ない。

 そんな事よりも、許してくれとは言わないが、まず僕の話をきいてくれないか?」


 そういって顔を上げた彼は少しやせ、やつれているようだった。ここのところまともに顔を合わすことはなかったのでアゼリアは彼の疲れた様子に驚いた。


「私との婚約破棄の件ですか?」


 それでも動揺を隠し、口にする。


 彼から先に言われるのは耐えられない。

 癖でユーリのパラメーターを見てしまうが、やはりゼロで壊れている。


「やめてくれ、君と婚約を破棄するだなんて考えられない」


 そう言って立ち上がったユーリの顔色は悪く頬はこけ目の下にはクマができていた。


「どうなさったんですか? お顔の色が悪いようですが」

 

 こんな状況だが、彼が心配になる。


「ずっと、眠れなかった。君に避けられて」

 

 この言葉には腹が立った。


「私を避けていたのは殿下ではありませんか!」

「申し訳ない」

 

 素直に頭を下げるユーリにアゼリアは冷静になった。


「お話を伺いましょう」

 

 その言葉に促されるように、マハがアゼリアとユーリの前に茶を準備する。それが終わると、マハはまたドアの前にたつ。


 

 それから、ポツリポツリと語られたユーリの話は信じがたいものだった。


「学園に入ると頭がぼうっとして、気付くとリリア様のそばにいるということですね?」


「そうなんだ。学園に入った途端、なぜだか君と婚約している事実も忘れている。

 すべてが夢の中の出来事のようではっきりしない。

 なんというか、不思議な行動をとる自分を俯瞰しているような感じなんだ。それに学園での記憶があいまいで。

 不安になって君のもとに訪れるようになったのだけれど、今度は君がちっとも会ってくれない。

 それから学園の外で周りから噂をかきあつめ、今の状況に思い至った」


 ユーリの話は、言い逃れにしてもひどすぎる。リリアにフラれて戻って来たのだろうか?

 だとしたら随分と馬鹿にした話だ。


「そんな馬鹿なことがあるわけないです。ユーリ殿下の発言とは思えません」


 アゼリアの言葉で二人の間に緊張が走る。


「あの、発言をお許しいただけるでしょうか?」


 マハが遠慮深げに、話に入ってくる。


「どうぞ」


 ユーリとアゼリアの言葉期せずして重なり。二人は気まずげに黙り込んだ。


 するとマハが許可を得たとばかりに話しだす。


「あの、殿下の話は、充分にあり得ることです」

「どうして?」


 アゼリアがマハの発言に鋭く反応する。


「あ、いえ、お嬢様もローガン殿下に夢中だったではないですか?」


 マハがアゼリアの迫力に気圧されたようになる。こんなことは初めてだ。

 それでもマハはドアから離れない。


「やめてよ。そんな話。どうして今するの?」


「違います。ローガン殿下はそれほどお嬢様に好かれるようなことをなさいましたか?」 

「え?」


 マハの問いに虚を突かれた。


 不誠実で意地悪で、会えば嫌味ばかりで。そういえば、ローガンはアゼリアに好かれるようなことは何もしていない。


 それに比べてユーリは学園では少なくとも紳士で親切で、夜会でも丁寧にエスコートしてくれていた。けっしてローガンのようにアゼリアを軽んじることはなかった。


 それが心地よくて彼を切る決断が遅れてしまったのだ。


「お嬢様、ローガン殿下を好きになったのはゲームの強制力です。

 

 それはユーリ殿下も一緒なのです。

 同じような現象が起きていると考えてみてください。

 

 ユーリ殿下が学園に一歩入った瞬間、ゲームの強制力が働くのです。それで学園内でユーリ殿下はリリア様を愛するかのような行動をとるのです。


 えっと、ヒロインであるリリア様がユーリ殿下ルートに入った場合、ユーリ殿下に婚約者はいないことになっていますから。

 お嬢様が婚約者だということをユーリ殿下は忘れています」


 頭を殴られたような気がした。


「は? ゲーム強制力? 冗談じゃないわ。いい加減にして!

 確かに私にはパラメーターが見えている。でもこれはゲームなんかじゃない。私はちゃんと感情を持っている。


 だから、裏切ったローガン殿下もユーリ殿下も許せない。心が悲しくて苦しくて痛くてたまらないの。

 こんな血を吐くような思いが、ゲームだなんていわれたら、私は……」


「済まない」


 ユーリが力なく謝る。彼が詫びるのは何度目なのだろう。プライドはないのだろうか?


 気付くとアゼリアは涙を流していた。ユーリがハンカチを差し出すが、アゼリアはそれを振り払う。彼からはもう何も受け取らない。


「アゼリア、僕は明日から、学園に行かない」

「え?」

 

 突然のユーリの言葉にアゼリアは目を瞬いた。


「だから、御願いだ。婚約を解消しないでくれ。そして、毎日君のもとにこうして訪れよう」


 美しい顔を苦しそうに歪めるユーリの姿が胸に迫る。いつもはクールな彼が、とてもやつれていた。苦悩が伝わっていくる。

 だが、信用するなど無理だ。


「そんなにコーリング家の後ろ盾が欲しいのですか? 勝手すぎます!」


 どうしても彼の言葉信じられない。信じろと言う方が無理だ。


「今の君には信じてもらえないだろうが、これでも僕は君を愛しているんだよ」


 ユーリが絞り出すように言う。


「それならば、休みの日にデートにでも誘ってくれればいいではないですか?」


 そんなことは一度もなかった。それで愛しているなど信じられない。


「だから、それは兄上が君に懸想していたから。それに早く婚約を解消してアゼリアを渡せと何度も迫られたんだ。

 君が僕の大切な人だとわかってしまったら、兄上はどんな手を使ってでも僕らを別れさせる。そう思ったから、必要最低限の事しかないようにしてきたんだ」


 耳を傾けてはいけないと思うのに、苦しそうに紡ぐ彼の言葉が胸に染みていく。


 マハに視線を移すが、彼女は顔色をなくし怯えているだけだ。

 やがて、決心したようにユーリが顔を上げる。


「アゼリア、僕は卒業まで学園に足を踏み入れない。学園での交友関係を利用して足場を固めようと思っていたけれど、隣国のティモナ王国へ留学する。

 君が卒業するまでこの国に戻らない」


 彼の決意に満ちた言葉が、アゼリアの胸に突き刺さる。


「そんなことをして、私がやはりあなたとの婚約を破棄すると言ったらどうするのです? 今度はあなたの逃げ場がなくなりますよ」


「構わない。自分で蒔いた種だ」


 計算高いユーリがいう言葉とは思えない。ユーリはどうしてしまったのだろう。


 それとも彼はいままで、計算高いふりをしていただけ?


「アゼリア、君を愛しているんだ。だから、卒業まで待ってくれ」


 今一番聞きたくない言葉を、耳を塞ぐ前に言われてしまった。



 心が激しく揺れる。


 そのとき、唐突にアゼリアの目の前に緋色の文字が点滅した。






 ルート ヘンコウカノウ リダツ シマスカ?









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