04 ユーリ視点
アゼリアと婚約して半年が過ぎる頃、ユーリはローガンにつきまとわれるようになっていた。
「なあ、ユーリ、アゼリアと別れないか? 俺はマリエルと結婚するんだったら、美人のアゼリアの方がいいんだ。最近性格も丸くなってきたようだし」
と笑いながら言うが、目はギラギラと光っている。
「僕に言っても無理だと思います」
「なんでだよ。お前が、婚約破棄してくれればいいだろう?」
何でも思い通りになってきたので、ローガンは我を通そうとする。
「まさか、侯爵家を敵に回すおつもりですか? 次やったら許してはくれないですよ」
軽く兄をけん制するように言う。
「いやだって、敵に回すのはお前であって俺ではない。お前が捨てた女を俺が拾うんだから」
ローガンらしい理屈だ。次期国王がこれで大丈夫なのかと心配になる。王妃がしっかりしていれば問題ないのだろうか?
「お断りします。アゼリアに直接頼んでみたらどうですか?」
「いや、それがおかしいんだ。贈り物をしても突き返されるし、非公式のお茶会に誘っても断られる」
「兄上は僕の婚約者に何をしているんですか?」
ユーリが呆れたように言う。
結局ローガンはアゼリアを愛していたのかもしれない。かなり身勝手で、ゆがんだ形ではあったが……執着している。
♢
ユーリは最近特にしつこくなったローガンを警戒し、とりあえずアゼリアと情報を共有しようと思った。
人目のある学園ではなく、アゼリアの家に向う。どこで誰に聞かれているか分からないからだ。
それにコーリング侯爵家専属魔導士にも確認したいことがある。
王都の一等地にあるコーリング邸につくとアゼリアが迎えてくれた。
「まあ、約束の期日までに待てなくて魔導士に会いに来てしまったのですか?」
先触れとほぼ同時に来たユーリに驚いていたアゼリアだが、何だかんだと言いながらも魔導士の住んでいる別棟に連れて行ってくれる。
「アゼリア、兄上は君にかなり執着しているようだが、しつこくされているのか?」
「執着? 送られてきたプレゼントや手紙、招待状は送り返しているのでご安心ください。
私の事より、ユーリ殿下の方がたいへんだと思うのですが」
とアゼリアが言う。
「僕の方が大変?」
「ええ、私にではなく、あなたに執着しているのかもしれませんよ。
子供の頃、ローガン殿下にお気に入りのものを取られたことはありませんか?」
アゼリアの問いに心当たりがあった。
「言われてみてれば多々あるね。あれには閉口した」
ローガンはなんでもユーリのものを取り上げた。ものでも人でも。そしてそれらを大切にしない。
「やはりそうですか。
いずれにしても私の中でローガン殿下への愛は死んでしまいましたから。二度と復活することはありません」
彼女はいつでも冷静だ。
話しているうちに別棟に着いた。
アゼリアが専属魔導士マハの部屋をノックする。
「そうそう、マハは少し変わっていますので、お気をつけてください。マハ、ユーリ殿下をおつれしましたよ」
アゼリアの言う事は控えめで、マハは少し変わっているどころか、規格外でだいぶ奇天烈な人物だった。
「推しの攻略対象だわ! やっぱ実物は綺麗!」
などと口走って初対面のユーリの元へ突進してくる。
「君、何を言っているの?」
助けを求めるようにアゼリアに視線を向けるが、アゼリアは
「では後はお二人でごゆっくり」
と言って微笑み、部屋から出て行ってしまった。
ちょっとおかしなコーリング家専属魔導士とユーリは部屋に取り残された。