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03 アゼリア視点


 婚約が決まって半年が過ぎた。

 アゼリアにとってユーリはとても安心できる男性だった。彼には感情の大きな起伏がなく、不機嫌な時もない。


 婚約者同士となった二人は意外に気が合い学園のカフェで毎日のように食事をするようになった。

 

 何を言っても揺るがない彼のパラメーターゼロにアゼリアは安心していた。


 だがそこへ、いつものように、ローガンがやって来るようになった。

 婚約を解消してからというもの、彼はよくアゼリアの元へ来る。今日も学園のカフェで捕まった。


「君たちはずいぶん仲がいいんだね」


 ローガンの横にはいつもリリアがいる。婚約者候補にはマリエル公爵令嬢が有力と言われているのにまだリリアを侍らしている。

 やはりローガンと別れて正解だったとアゼリアは思う。


 リリアは殿方と一部の女子に大人気だが、成績は振るわず。王も王妃もローガンとリリアの婚約を許さない。


「はい、ユーリ殿下には仲良くして頂いています」

「ユーリ、アゼリアといて疲れない?」

とローガンは訳知り顔にユーリに問う。


「全く疲れません。とても気楽です」

とユーリが言うとローガンが驚いた顔をする。


「小言とか言われない? というかアゼリア、第二王子のユーリには甘いの? 

 そういえば、こういう噂を知っているかい? 

 アゼリアは俺にフラれたから、俺に顔が似ていて王族であるユーリと婚約を結んだと言われているんだよ。本当に不敬なことを言う奴らがいるものだね」


 とにこにこと微笑みながらローガンは、ユーリからアゼリアに視線を移す。


「そうですか」

 アゼリアは挑発に乗らず、短く答える。


「だってさ、ユーリ」

といってローガンはにやにやとして、今度はユーリに笑いかける。


「そういえば、僕と婚約したのは僕が浮気をしなさそうだからと言っていたね」

 ユーリがアゼリアににっこりと笑いかける。


「はい、おっしゃる通りです。ユーリ殿下はとても誠実な方なので心安らかに過ごせます」

といってアゼリアもユーリに笑いかける。


 それにはローガンが顔を引きつらせた。


「お前たちそれで上手くいっているの? 浮気しなさそうって、もてなさそうってことだろう? お前馬鹿にされているんじゃないのか?」

 ローガンのほうがよほど失礼だ。それに美しい母親から生まれたユーリはローガンよりも美男子である。


「逆にお尋ねしますが、上手くいっていないように見えますか?」

とアゼリアが不思議そうに首を傾げる。


 断りもせずローガンは彼らの向かい側にリリアと座る。


「アゼリア、君が僕と結婚したかった理由って何? 顔?」

 やけにローガンが絡んでくる。

 隣に座るリリアの表情が険しくなってきた。


「ローガン殿下、ここは居心地悪いです。あちらの席に移りましょう?」

 リリアが甘ったるい声でねだる。さすがのアゼリアも感情が顔に出そうになる。


「いや、俺ちょっとアゼリアに確かめたいことがあるから」

 

 二人の不愉快なやり取りを聞きながら、アゼリアはガタリと席を立つ。


「私、これから授業の準備がありますので失礼致します」

「ああ、じゃあ僕も。アゼリア、一緒に行こう」

 ユーリも立ち上がった。


 後には憮然としたローガンとリリアが残る。




「なんで兄上はあんなに君に絡んでくるんだろうね。しかも婚約を解消した途端に」

と廊下を歩きながらユーリが言う。


「あなたも絡まれていたではないですか。というか主にユーリ殿下に絡んでいたのだと思いますよ」

 アゼリアはいった。


「僕はいつものことだから。それで、僕らは婚約したけれど兄上の好感度はどうだった?」

「それが、上がっているんです」

 今更迷惑な話で、アゼリアは困惑した。


「え? あんなにねちねち嫌味を言ってきていたのに?」

「はい」


「いくつ?」

「+70です」

 ユーリがしばし絶句する。


「……それで、君はまた一番に返り咲いて、兄上と婚約を結びなおしたい? 僕は君がそれで幸せになれるのならばいいよ」


 アゼリアはユーリのことばに目を見開いた。本当に彼はすごい。


「凄いです。いかにも身を引く的なことを言っているのに、私への好感度はゼロです!」


「それは……ついうっかりくせで取り繕ってしまっただけだよ」

といってユーリが少し傷ついたように苦笑する。だが、パラメーターはゼロ。


「婚約はこのままで。私はあなたと結婚します」

 ユーリのパラメーターを見たアゼリアの決心は揺るがない。

 それにローガンに対する愛は本当に死んでしまった。彼を見ても辛くなるだけで、心が浮き立ったりしない。

 婚約が決まる前から五年間ローガンを慕ってきたが、裏切られ続けて心はぼろぼろだ。


「それはどうして? 君はまだ兄上を愛しているのだろう?」

「うちの魔導士が言っていました。パラメーターが100を振り切ると私は監禁されて殺されるそうです」


「は? なにそれ、愛され過ぎてもダメなの?」

「そういう事です」

「意外に愛ってむずかしいんだね」

 ユーリの言葉にアゼリアは力強く頷いた。


「ええ、だから愛の欠片もない、あなたがいいんです。

 うちの専属魔導士が言っていたのですが、あなたのような人をサイコパスと言うのだそうです。

 感情の起伏がなく、向いている職業は暗殺者に医者、国のトップなどだそうです」


「全く関連性がないように思えるけれど。それにサイコパスって何? 君いま僕の悪口言っているよね?」

 ユーリが気を悪くしたように言う。


「いいえ、違います」

 アゼリアは彼のパラメーターを見ながら、慎重に答える。


「ひどい言われようだな。僕の好感度は君だけにゼロかもしれないじゃないか」

 ユーリが眉間を寄せる。


「そうですね。それでも私はゼロのあなたがいいです」

「裏を返せば、君に感情をゆさぶられる兄上は、実は君を愛しているんじゃないかな?」

「それはローガン殿下との婚約を勧めているのですか?」

 アゼリアはキッとなってユーリを見上げる。


「そういう訳ではないけれど、ここのところ早く君との婚約を破棄しろと兄上にせっつかれているんだ」


 彼の言葉にため息をつく。どうやらユーリは逃げ腰になっているようだ。


「それは単にユーリ殿下に対する嫌がらせだと思います。なんでも私のせいにせず、ご自分で対処なさってください。

 それに、仮にローガン殿下に愛されていたとしても人の愛を踏みにじる人は無理です。それならば私は愛のない結婚を望みます」

 

 アゼリアの言葉にユーリがしばらく考えるそぶりを見せた。


「アゼリア、話は変わるけれど、そのコーリング家の専属魔導士に会わせてくれない?」

「構いませんが、なぜですか?」


 アゼリアは不思議だった。なぜなら、ユーリは今まであまりアゼリアに興味を持ってこなかったからだ。


 よって一緒にいるのは学園内だけで、アゼリアの家に来たのは婚約を交わしたときだけだ。


 愛とか恋とか絡むよりもこの方がさっぱりしていてずっといい。

 アゼリアは、そう思っていた。


「いろいろと聞きたいことがあってね。それとその魔導士に魔道具を作ってもらったらどうかな。そのパラメーターが視えなくなるやつ。そうすれば、君の心も安らかになって考えも変わると思うよ」

 とユーリが提案する。


「それは試しましたが、無理でした。パラメーターも見えませんが、他のものも見づらくなるので、日常生活に支障をきたします」

 

 それを聞いてユーリが「駄目か」とため息を吐く。


「そういえば、ユーリ殿下は魔道具には造詣が深いのですよね」


 彼はおそらく優秀なのではないかとゼリアは思っている。


「駄目だよ。僕には愛がないから、君の為に何かするなんてとてもじゃないけれど出来ないよ。今ある研究で手いっぱいだ」

 そう言ってユーリが肩をすくめる。


 彼がそう言うことは予想していたのでアゼリアはくすりと笑う。パラメーターは安定のゼロをさしていた。


「ユーリ殿下は後ろ盾がないのですよね。それでは魔道具を研究したくとも資金がたりないでしょう。ユーリ殿下が協力してくださるならば……」


とアゼリアは彼のパラメーターを見ながら言う。


「君に一つ提案がある。僕の研究をする傍らで、君のための魔道具を開発しよう」

「あくまでも私のためのものは、片手間なのですね」

 手のひらを返したユーリは、悪びれることなく笑う。


「それで侯爵家専属の魔導士にはいつ会わせてくれるの?」

「では近いうちに。魔導士はマハという女性で、うちの敷地内の別棟に住んでいます。帰ったら予定を聞いておきますね」


 最後まで、ユーリのパラメーターはゼロのまま動かなかった。




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