表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

2/19

02 ユーリ視点

「パラメーターですか。ちなみに兄上のパラメーターは?」

 気になったので試しに聞いてみた。


「現在、-10です。そしてうちの魔導士によると、-50を超える相手は私に殺意を持っているのだそうです」

 アゼリアが悔しそうに下唇を噛む。


「それは便利だな。自分に殺意を抱いているものが分かるなんて」


 感心したようにユーリが言う。

 

「便利? とんでもない。人に嫌われているのが、はっきりと視えるんですよ? 数値化されているのです。どれほど傷ついたか。

 ご存じとは思いますが、私は高位貴族の殿方には軒並み嫌われているのです。このままでは殺されてしまいます。だから、ユーリ殿下にお願いしているんです」

 

 アゼリアが興奮して一気にぶちまける。もしかしたら妄言ではないのかもしれない。が、やはり意味が分からない。


「しかし、なぜ好感度ゼロの僕に? ちなみに今一番好感度が高いのは誰ですか」

「ついこの間までは、ケイン様でした」


 彼は先ほどアゼリアのこと悪しざまに言っていた。だが、彼女は今過去形で話している。


「申し訳ないが、その話を信じろと言われても無理がある。しかし、好感度が視えるのならば、それを見ながら相手の好感度が上がることをすればいいんじゃないんですか?」


 アゼリアがため息を吐く。


「そんなこと考えたにきまっているじゃないですか。もう、ケイン様で試しました」

 ユーリはその言葉にはぎょっとした。


「え、どうやって?」

「最初、彼の私に対する好感度は10でした。ゼロではないので、やりやすいと思ったのです。

 だから、にっこり笑って挨拶し、褒めてあげたんです。もちろん私は婚約者のある身ですから、それ以上のことは致しません。すると好感度はすぐに上がりました」


 確かにきつい顔のアゼリアが笑ったら、そのギャップにやられることもあるかもしれない。彼女はそれだけの美貌を持っている。


 そのうえ、辛口の彼女に褒められるなど、単純なケインならば、あっさり引っ掛かるかもしれない。


 しかし、先ほどのケインの態度から、アゼリアへの好感度が高いとは思えない。いったい何があったのか気になる。


「では僕などに声をかけず、ケインと付き合ったらいかがです」

「言い寄られましたが、婚約者のある身ですからお断りしました。そうしたら、好感度が爆下がりして現在-20。以後、近づかないようにしています」

 アゼリアは肩を落とす。


 ユーリはなるほどと思った。ケインはプライドが高く女性を見下しているところがある。その変化には納得がいく。


「ならば、別に僕にこだわらなくてもいいのではないですか? それとも僕と結婚すれば兄上のそば近くにいられるからですか?」


「はずれです。むしろ傷がうずくのでローガン殿下にはお会いしたくないくらいです」

 アゼリアがびしりと言う。


 ユーリは肩をすくめた。女心というか、彼女の心は分からない。


「それならば、余計王族にこだわる理由はないと思います。ご両親と相談されてはいかがですか?

 それに、あなたがそれほど他の殿方に嫌われているようには思えませんよ」


 これはユーリの本音だった。好かれているわけではないが、すべての男性に嫌われているわけでもない。美人だし、侯爵令嬢なのだから、高飛車な態度さえ改めれば周りの評価も随分変わるだろう。


「ユーリ殿下は安心なんです。私はパラメーターが視えるようになってから、ローガン殿下にあの手この手で尽くしました。そのたびに好感度は下がり、―35を記録する日もありました」


 いったいアゼリアは何をやらかした? ユーリはそんな驚きを胸のうちにしまう。


「ああ、それはなかなか危険水域ですね。おや、でも先ほどは、―10だったと言っていましたね。ということは保ち直したのではないですか?」


「そんなわけありません。試すまでもなく理由は分かっています。私がローガン殿下の前に現われなかったから、彼の気持ちが鎮まり、好感度がましになったのでしょう。

 このままローガン殿下に会い続けたら私の好感度は確実に速やかに-50に到達します。

 王族が本気になれば、たとえ私が侯爵令嬢と言えど事故に見せかけて殺されます」


 アゼリアがきっぱりと言い放つ。


「なら、このまま兄上の目に触れずにいれば、あなたの好感度はますます上がるということですよね」

 するとアゼリアが柳眉を逆立てた。


「そんなことはないと分かって言っていますよね? ローガン殿下は何をしても私が御嫌いです。もう、すでに手遅れなんです。私は、あの方の目の端に入るだけで好感度が下がるのです」

「失敬」


 本当に気の毒な話だとは思うが……。


「もちろん、好感度は私の出方態度次第で変わります。

 でもただ一人、あなただけは私がどんな振る舞いをしても変わらないのです。現にいまもゼロから動きません。

 つまりいつでも私を好きでも嫌いでもなく、関心もない。だから、あなたと結婚したいと思ったんです」

 

 実にかわった発想の持ち主だ。


「それは、これから先、好感度が急激に下がったりしないという理由からですか?」

「そうです。愛は求めていません。私は生きることを求めているんです。それに有力貴族の娘である私と結婚すればあなたには後ろ盾が出来ます」


 ユーリは苦笑する。妾腹である彼は、後ろ盾が弱い。そのことを見透かされている。


「生きることを求めるのならば、僕は適任ではないと思いますが」

「なぜです?」

「一応王族ですので、妾腹とはいえ、それなりに命は狙われますから。あなたもとばっちりを受けるかもしれませんよ。

 それにあなたを愛することはないので、僕は自分を第一優先にするでしょう」


「ああ、ご心配なく。私にはパラメーターが視えますから。自分の身は守れます」

「なるほど」

 ユーリが眉根を寄せる。


「やはり、あなたのパラメーターは動きませんね」

「え?」

「私が失礼なことを言っても、同情を引くようなことを言っても、あなたのパラメーターは変わらないのです。つまり、あなたは人に嫌悪感を抱くこともなければ好意を抱くこともない。浮気の心配がないのです」

 すました顔で、不躾なことをいう。


「それは、まかり間違っても、あなたを愛することはない、という事ですよ」

 ユーリが言い返した。


「構いません。私の愛は死んでしまいましたから」

 アゼリアが寂しげに言う。

 それに関してだけは可哀そうに思う。

 はたから見ていても兄の仕打ちは酷い。そのくせアゼリアを加害者に仕立て上げている。


「本当に兄上を愛していたんですね」

「愛してもいない人の為に努力なんて出来ませんよ」

「ええ、残念でしたね」

とユーリが気の毒そうに言うと、アゼリアが目を見開いた。


「驚きました。

 あなたは、ちっとも私をかわいそうだとは思っていないのに、悲しそうな顔は出来るんですね。皮肉ではなく、素晴らしいと思います。

 多分他のお方に対する好感度もそれぞれゼロなのでしょうね。

 それであなたは私と婚約してくださるのですか?」


 酷い言われようだが、だいたい合っている。他人にはあまり関心がない。ユーリは肩をすくめた。

 アゼリアには取り繕わず本音で対処することにする。


「それに関しては無理ですね。あなたは何もかも一番だ。兄上は婚約の解消を喜んでも国王が許しませんよ。この国の王妃はすべてにおいて秀でていなければならない」

 

「それなら、ご心配なく。次で私は成績を落としますから。あなたとの婚約が確定するまでは一番にはなりません。今のあなたと同じように、分かる問題もわざと間違えますので」


 これには驚いた。


「そのパラメーターは心まで読めるのですか?」

 先ほどから彼女は勘がいい。


「まさか、今お話ししてみてそんな気がしたんです。カマをかけただけです。第二王子であるあなたが、第一王子より優秀であってはまずいのですよね」

 恋に盲目になっていただけで、頭は悪くないようだ。

 

 性格は少し変わっていて癖はあるようだが、寄りかかってこなさそうで、案外つきあいやすい女性かもしれない。


「そうですね。では前向きに検討してみましょう」

 

 するとアゼリアが笑う。初めて見る彼女の笑顔。


「本当にすごいですね。1メモリも好感度が振れません。ゼロのまま。これは期待できます。ユーリ殿下よろしくお願いますね。私は絶対に裏切りません」







 アゼリアは約束通り、一ケ月後のテストで、一位から二十位に転落した。

 そして自らが申し出て彼女はローガンとの婚約を円満に解消した。


「アゼリア、一度の失敗くらいで婚約者を辞退することはなかろうに」

と国王は残念がったが、


「すべて私の力不足でございます。もう限界のようです。今後恥をさらすより、いま身を引きたいと思います」

といってあっさりと引き下がった。


 その後、驚くほど簡単にユーリとの結婚は決まった。

 

 アゼリアの両親はローガンを嫌っていた。


 元々婚約の継続は無理と思っていたようだ。すんなりと婚約は解消し、ユーリと婚約を結びなおした。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ