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18 マハの独白2

「……お嬢様が、学園に残ることを選んだ場合は断罪され処刑エンドを迎えます。また、今すぐ逃亡を選んだ場合は馬車で隣国に渡る途中で暴漢にあい命を落とします」

 素直にゲームの内容を話した。しかし、私にしても悪役令嬢の末路などすべて覚えているわけではない。ヒロインに比べて雑だし。


「それは確かなことだな? それ以外のエンドはないのだな?」


 ユーリの顔がさっと青ざめる。


 間違いなく彼はアゼリアを愛している。なぜか、まだ彼女を愛している。とりあえず面倒くさそうなので、修道院エンドがあることは省いた。

 

「うーん、確かなことかと言われましても、これはゲームの内容ですから、バグもあります。殿下やお嬢様のように」

「バグとは間違いの事だろう?」

 

 心外だとでもいうようにユーリが柳眉をひそめ、話の先を促す。

 私は渋々話した。


「それで、ユーリ殿下がこれから先ヒロインに落ちれば、その後ヒロインは逆ハーエンドを迎え、そのうち誰か一人を好みで選んで結婚しますが、逆ハーはそのまま続行です」

「気持ち悪い」

 ユーリが吐き捨てる。


「ヤンデレ一途のあなたにとってはそうでしょうね」

「ヤンデレ?」


 ユーリの瞳に不穏な光が浮かぶ。

 しまったと思った時にはもう遅く、ごまかそうとしたが、すべてを吐かされた。


「貴様は、ゲームだと言っているが、この国ではそれは予言や神託の類として受け止められるだろう」

「え?」

「国にとって大事なことを黙っていた。これは許されないことだ。

 それに何よりも、アゼリアに僕を勧めないという選択肢もあっただろう? つまり貴様がいうところの攻略対象者以外のモブを勧めればよかったではないか。そうすればアゼリアを傷つけず危険にさらさないで済んだ」


「そんな! ヒロインが恥知らずならば、逆ハーの可能性もあるとちゃんと説明していました。それに悪役令嬢の相手にモブなんてありえない!」

 私は、ついうっかり叫んでしまった。


「ただですむと思うなよ」

 

  その言葉に初めて恐れを感じた。今まで自分が処分の対象になるなどと考えたこともなかった。

 私は、あくまでもモブでゲームの傍観者だと思っていたのに。


 乙女ゲームなのだから、モブが巻き込まれるなんてありえない。

  いや、モブは人知れず裏でさっくりと殺されているのかもしれない。

  モブだけにゲーム内では語られない。  


  急に恐ろしくなってきた。私にはリセットボタンも離脱ボタンも用意されていない。

  これほど不利なことはないのだ。今更そのことに気付いた。

 

  その後アゼリアを呼び出すよう彼に命令され、後はユーリの言いなりになるしかなかった。


  私はただのモブなのに脚光も浴びず罰だけ受けるなんて理不尽だ。




♢♢♢




 アゼリアが消え、学園の卒業式が終わる頃、コーリング家の私の部屋に役人たちがやって来た。

 私はそのまま罪人としてとらえられ、馬車に乗せられる。

 

 コーリング家の人間は誰も助けてくれない。今まで皆私のやることは大目に見ていてくれていたのに。アゼリアがいたなら助けてくれたかもしれない。

 


 馬車に乗せられている間、生きた心地がしなかった。乙女ゲーム終了後の世界なんて知らない。


 それから、粗末な一室に入れられた私は、役人たちに厳しく尋問された。

 




 その後、牢獄に入れられ、通路を挟み鉄格子越しにヒロインと対面した。


 初めて見るヒロインは精彩を欠いていて、がっかりな容姿だった。 

 アゼリアの方がずっと美しい。


 ゲームが終了し、ヒロイン補正が消えたのだ。

 そうだとしたら今のアゼリアも悪役令嬢の補正が消え、精彩を欠いているのだろうか?

 

 ああ、アゼリアが助けに来てくれないかな。


 いずれにしても薬を盛られて――まあ、薬を直接盛ったのは私だけれど――ユーリに攫われたのだ。暴漢に襲われて死んでいるか、監禁されているのか、ユーリに殺されているかどれかだろう。

 

 いずれにしても無事ではない。私の助言通り、修道院に行けばよかったのに。

 アゼリアが、素直に離脱ボタンを押していれば、私だってこんな目に合わずに済んだ。


 思索にふけっていると、ヒロインの方から話しかけて来た。


「ねえ、ちょっとあんたも転生者って本当?」

 私と同じ、粗末なずた袋でも被ったかのような囚人用の服を着たリリアが話しかけてくる。


「そうだよ」

「じゃあ、教えてよ。リセットボタンって、いつ出て来るの?」

 呆れた。そんなことも知らずにこの女はゲームのヒロインをやっていたのだ。


「卒業パーティーの前日よ。それがラストチャンス。あんた、あんまりゲームやり込んでいなかったでしょ?」

 だから、課金アイテムを手に入れたのにもかかわらず逆ハーエンドに失敗したのだ。


「は? そんなもの出てこなかったわよ」


 そんなわけはない。目の前に選択肢が現れて、リセットボタンがでかでかと点滅するはずだ。


「見落としたんじゃないの? それかバグ?」


 ヒロインの破滅など、私にとってはどうでもいいことだった。

 いや違う。私はこいつの破滅に巻き込まれたのだ。


「ちょっと冗談じゃないよ。私このままじゃ殺されちゃう。ねえ、これから先、どっかでリセットボタンが出て来るタイミングってないの?」


 リリアのこの発言には呆れた。


「はあ? もうゲーム終わってんのにリセットボタンなんか出て来るわけないじゃない! あんたばっかじゃないの? これはゲームじゃないのよ?」


 ゲームじゃない。そんな言葉がするっと私の口から飛び出した。

 薄々そんな気はしていたのだ。

 私は途中から気付いていた。

 ユーリが顔色をなくして私の部屋へ訪ねて来た時点で、何らかの手を打てばよかった。

 国外に逃げ出すとか……。


「よく言うよね。あんたも転生者でモブのくせにここにいるってこと自体詰んでんじゃない。何やらかしたのよ?」

 馬鹿にしたような口調でリリアが言ってくる。


「あんたに言われたくないわよ! ヒロインのくせにバッドエンドとか、馬鹿じゃないの? 課金までして失敗したなんて信じらんない」


「おい、お前たち静かにしないか!」

 牢番に怒鳴られた。 


「うるさいわね。モブのくせに黙れ!」

 リリアが牢番に向かって怒鳴り返す。

 私はそんな失礼なリリアを怒鳴りつける。


「モブの悪口言うんじゃないよ! ゲーム終了後はあんたもただのモブじゃない!」 

 

 本当にこの世界は転生者のモブには暮らしにくい。



 で、アゼリアってどうなったの?

 誰も教えてくれないのだけれど?



 










 

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