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15 やんでるからこそ、あなたが信じられる

「国にいる時に、古くからある王族の記録を調べたんだ。門外不出のね。あまりにも不名誉過ぎて表に出せない」


 そう言って苦笑する。最近表情が出て来た彼に少しほっとする。


「それでなんと書いてあったのですか?」

 ユーリは茶を一口飲み唇を湿らせた。


「百年ほど前にも貴族学校で同じことが起きた」

「え?」

「庶民で貴族と養子縁組した令嬢に、高位貴族の子弟たちや王族が次々と魅了されてしまうのだ。しかし、卒業後、二か月もすると終息している。決着はそれぞれで違うけれどね」


「決着はそれぞれで違う?」

 アゼリアは柳眉を上げた。

「そうだ。君のような高位の貴族令嬢が断罪されることもあれば、リリアのようなヒロインが断罪されることもある」


「マハは、ヒロインは絶対だと言っていたけれど。断罪されることがあるのですか?」

 ユーリはその言葉に頷いた。


「僕はさかのぼって記録を調べた。すると不定期ではあるが、長い期間を置いて繰り返されていることだと分かった。残っている記録では今回で四度目になる。だから、今後このようなことが起きないように解決策も考えた。国に帰ったら、父に進言しようと思う」

 そんなことが繰り返されるなど恐ろしい事だ。


「解決策とは?」

「ヒロインが現れたら即刻排除する。

 不思議なことにヒロインが現れると予言者がセットで現れるんだ。つまりマハのような存在だね。だから、いち早く予言者を見つけるか、庶民上がりの貴族で魅了体質のヒロインを見つけ排除する」



♢♢♢



 彼と会話を交わすようになって二ケ月が過ぎた。 


「良かったですわ。外出できるようになって。一時はどうなるものかと思いました」

 今二人は屋敷の広い庭を散歩している。


「君には不便をかけたね」

 ユーリが苦笑する。


「それでこれはいつ外れますの?」

 アゼリアが腕をあげるとそこには鉄枷があり、今は部屋の壁ではなくユーリの腕輪と鎖で繋がれている。


「それは……、しばらく待ってくれ」

 彼は、羞恥を感じているのか白磁の頬を染める。


「まあ、外出はできるようになりましたから、いつか外してもらえると信じています」

 アゼリアは不承不承頷く。


「そのことなのだが、今作っている魔道具が出来たら、すぐにでもそれと取り換えよう」

「魔道具ですか?」


「ああ、君を守るためのものだ。同じく腕輪だが、鎖はついていない」

 何の魔道具だろうか? 少し興奮気味に早口で話す彼に嫌な予感がする。

 

「それだけではないですよね?」

 ユーリはアゼリアのその言葉に鷹揚に頷く。


「君のいる位置が分かるようになっている。今その精度を上げているところだ」

 それを聞いたアゼリアの顔に苦い笑みが浮かび、やがて諦めに代わる。


「良くそのようなものを開発する時間や資金がありましね」

 皮肉を言うアゼリアに、ユーリがなぜか嬉しそうな笑みを浮かべた。別に褒めていない。


「言ったろう? ここは母の祖国なんだ。母は豪商の娘だった。そこから資金提供を受けてね」

「それで、資金が豊富なのですね」

「少し違うかな。最初に資金提供は受けたが、今は受けていないよ。貰った資金を僕が膨らませたんだ」

「はい?」

「魔道具を売ってね。商会を始めたんだ。だから、この国で自活できるくらいの資産はあるよ」

「留学しに来たのではないのですか?」

 彼はいったい今まで何をしていたのだろう? この国に移住でもするつもりなのだろうか。


「もちろん、学校は卒業しておいた方がいいから、きちんと通っているよ」


 その言葉を聞いてマハの話を思い出す。ユーリは『スクパラ』一のハイスペックイケメンだといっていた。


「ここの使用人は僕が直接雇っているものがほとんどだ。王宮の者たちは信用できないからね。早々に国に帰した。いま君についているメイド達も僕自ら面接をした」


 それでも彼は使用人を信用できずに鉄枷の鍵は自分で保管している。


 いや、信用していないのではなく。それはおそらく彼の癖……。


 美貌の王子は、残念なことにやんでいた。


 そして、この異常な執着は信じるに値する。







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