表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

14/19

14 やっぱり〇トッ〇ホル〇症候群……?

 その晩を境にユーリとアゼリアの間に会話らしきものが生れた。


 いつの間にか彼はお茶の時間にまでやって来るようになり、だんだんとユーリは嬉しそうな表情を見せるようになった。

 

 それはアゼリアも同じで、監禁されているはずなのに彼の訪れが楽しみになってきている。


 自分でもこの状況は異常だと思うが、外に出られない以外は何不自由なく暮らしているのは確かで……大切にしてもらっていると心が勝手に解釈してしまう。


「マハの話によると、君は学園を卒業するその日に断罪される。それから牢獄に入れられ断頭台に送られるそうだ」


「私が断頭台に? なぜ? そんな大罪はおかしていません」


 まったくもって、解せない。


「関係ないんだ。これは何かおかしな強制力が働いていてね。多分整合性のないずさんな証拠がいくつも出てきて君は断頭台に送られる」


「そんな……」

 しかし、アゼリアはたくさんの身に覚えのない悪意が自分に向かってくるのを学園で目にした。



「学園だけのことならば、僕も国を出ようとは思わなかった。君のことも心配だったし。だが、アゼリアを断頭台に送るなど、王宮にも今後何らかの力が働くとしか思えない」

 

 理にかなっていると言えるのかもしれない。


「そうかもしれません」


 彼の言っていることが荒唐無稽とは思えないから、余計怖い。



 次第に彼がリリアに惹かれたのはゲームの強制力だったのではないかと思えるようになってきていた。


 認めたくはないが……。いまのところ彼は嘘をいったり、誤魔化したりしてはいないように感じる。


「祖国はどうなってしまうのでしょう。家族が心配です」

「恐らく大丈夫だろう。いざとなったらコーリング侯爵家もこの国に避難する予定だ」

「え?」

 アゼリアは驚いて目を瞬いた。


「お父様は私がここにいることをご存じなのですか?」

 思わず身を乗り出す。


「もちろん、卿は君を愛している。ちゃんと伝えてあるよ」

「じゃあ、このことも伝えてあるのですか?」

 アゼリアは自分につけられた鉄枷をユーリに見せる。

 するとユーリが暗い顔をして首をふった。


「いや、それは君の意思で伝えるといい。いずれにしても後二ケ月ほど待ってくれないか」

「鉄枷を外してほしいと言っているだけなのに、どうしても私を信じられないのですね」


 それが悔しい。自分の意志ではなく、捕らえられてここにいることが猛烈に悔しい。

 プライドと尊厳の問題だ。


「信じるとか信じないとか、理屈ではないんだ。僕は君を失うのが恐ろしい」


 それならば、なぜ心変わりをしたのかと問う気にもなれなくなっていた。


「どうして、それほど私を失うのが恐ろしいのですか?」

「君が大切な人だから」


 大切にされているような気はする。何の不足もない生活をしているのだから。

 しかし、流されてはいけないとアゼリアは鉄枷に目を落とす。



「それならば庭の散歩くらいさせてください……。いいえ、今はやめておきましょう」

 

 ここに連れられてきてから一度もこの部屋から出ていない。しかし、言っても詮無い事だ。

 しばらく二人の間に沈黙が落ちる。

 

 ユーリがカップに残った紅茶を飲み干した。


「僕の予想なのだけれど、リリアは恐らく魅了の力をもつ魔道具を使っている」


 そう言いながら、彼はアゼリアと自分のカップに紅茶のお代わりを注ぐ。

 こういうところはマメで気が利く。


「古代にそういう魔道具があったと聞いたことはありますが……今は魅了に関することはすべて禁止されているはずです」


「マハは、リリアが課金で魅了のアイテムを買ったのだと言っていた」

「課金? アイテム?」


 そういえば、前にマハが何かを言いかけてやめたことがあった。


「そう、金を払えばヒロインだけアイテムという魔道具を買えるそうだ」


「それでローガン殿下もあなたも他の方々もリリア様に惹かれのですか?」


 ユーリが少し渋い顔をする。


「兄は分からない。随分早くからリリアに心を奪われていたら。皆の様子がおかしくなって、僕は嫌な予感がした。

 だから、アミュレットを身に着けるようになった。それでしばらくはリリアに魅了されないで済んでいたのだが……」

「アミュレットが効かなくなったと?」


 ユーリが力なく首をふる。


「違う。薬を盛られたんだ」

「え? まさか? お毒見されたものを食べているではないのですか?」


 王族はたいていそうだ。

 彼は学園で、いつも毒見の済んだ冷えたものを食べていた。


「僕の方は兄上ほど、厳重にはされていないし、少量の毒見では分からない。

 アミュレットを身に着けてからしばらくすると、頭がぼうっとする時間が多くなってきたんだ。

 そのときアミュレットは偽物とすり替えられたのだろう。僕も油断していた。

 それから眠る時もいつの間にかおかしな香が焚かれていたことがあってね。こちらの国に来ていろいろと調べたんだ。

 僕が身に着けていたアミュレットはただのガラクタで、香には精神に作用するおかしな薬が入っていた。おそらく僕の周りにいた城の使用人達は抱き込まれていたのだろう」


「そんな……酷い。いったい誰に? まさかリリア様?」


 アゼリアは鉄枷で繋がれている状態だが、この期に及んでユーリが嘘を言っているようには思えない。


「おそらく兄の指示だ。兄は完全にリリアに支配されてしまった。それに元々僕に反感を持っていた。

 薬を盛られていることに気付いたその日から、僕は水以外の食べ物を口にしなくなったんだ」


 彼がやせこけていた理由がわかった。


「そのゲームの強制力は、ヒロインが死ぬまで続くのですか?」

   

 国はどうなってしまうのだろう。アゼリアは暗澹たる気持ちになった。


「いや、後二ケ月で終了だ。リリアに何らかの結末が訪れるはず」


 ユーリはそう断言した。


「それもマハの話ですか?」


 全面的にマハを信じていいのだろうか? 危険な気がする。

 彼女はアゼリアにすべてを教えてはくれなかった。友達だと思っていたのに……。


「いや、違う。これは僕が調べたことだ」

「調べた? どうやってですか?」


 にわかに興味を惹かれアゼリアは身を乗り出した。

 

 頭のどこかで完全にユーリのペースだと思いながら。







よろしければ☆→★(評価)とブクマをいただければ幸いです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ