11 強制力?
ユーリは宣言した通り、隣国ティモナ王国へ留学した。
アゼリアは一人学園に取り残される。
それは想像以上に惨めなもので……。
だが、コーリング侯爵家の顔に泥を塗るわけにはいかない。
アゼリアは、いつでもぴしりと背筋を伸ばし学園内では気丈に振舞い続けた。
これからどうしようかと悩みつつも……、コーリング家の人間として逃げるわけにはいかない。たとえそれが嘲笑であっても。
学園では、相変わらずどこからともなくリリアの被害にあった令嬢達が現れる。
始まるのはいつもの傷のなめ合いとリリアの糾弾だ。
アゼリアはそんな彼女たちをいつも宥めた。しかし、どんなに宥めても少しずつリリアへの嫌がらせは始まっているようで、アゼリア一人では止めることは出来ない。
そんな鬱々とした中で家に帰ったアゼリアは、父侯爵の執務室に呼ばれた。
「ユーリ殿下の事でしょうか」
アゼリアはソファに腰かけ紅茶を飲みながら落ち着いたようすで父に問う。
「ああ、彼の事だ。調査結果の報告が来た。
やはり、お前の言った通りだったよ。ユーリ殿下とリリアが二人きりで何度か中庭に消えているのが目撃されている。人目につかない場所で、二人で親しそうなようすで昼食を食べていたと。せめてもの救いは学園外で会っていないということだ」
そう言って父は心配そうな視線をアゼリアに向ける。
「ええ、存じています。私も一度、お二人の仲睦まじい姿をお見掛けしました」
紅茶を一口飲むと、父シモンは咳払いを一つする。
「それから今学園では異様な事態が起きていることが分かった。有力貴族の子弟が、みなリリア嬢の取り巻きになっている」
「はい、その子弟の婚約者だったご令嬢方も辛い思いをしております」
父はアゼリアの言葉に頷いた。
「どうやら、リリア嬢はおかしな術を使っているようだ。学園でも調査を始めた。うちでもさらなる調査を続けるつもりだ。
だから、お前はもう何も心配しなくていい。
それから、ユーリ殿下との婚約は、アゼリアの意思に任せることにしようと思っている」
アゼリアは驚いて顔を上げる。
「お父様はユーリ殿下の事を怒っていたのではないのですか?」
それに父が頷く。
「確かに初めは腹が立った。
しかし、こういう事態になってしまっては……。
現在の学園の状況を考えると何か邪悪な力が働いているとしか思えない。
それに他の女生徒にうつつを抜かすなど、しっかりされたユーリ殿下らしくない。彼はとても理性的な人間であるし、己の不利益になるようなことはしないだろう。それはお前もよく知っているはずだ」
「ええ、以前は確かにそうでした」
アゼリアも彼のそこが気に入っていたのだ。
「だが、お前は何も気にすることはない。自分の思う通りにすればいい。婚約を破棄したければ破棄してもよい。ユーリ殿下につけこまれるような隙があったのは確かなのだから」
父の言葉がじんわりと胸に染みた。
家の利益よりアゼリアの意思を尊重してくれようとしている。
しかし、なぜ、ユーリはリリアに惹かれて行ったのだろう。マハの言うようにゲームの強制力?
それとも父が言うように、何かおかしな幻術でも使われたのだろうか。
それについては調査を待つこととなった。