災難男と物好き娘
藍色の空には、雲が浮かんでいて。
海の向こう、地平線の彼方から、太陽がほんの少し顔を出している。
その輝きは、暗い世界に色を付け。
彼女の潤んだ紅い瞳を、僕の目に焼き付けている。
朝風は彼女の髪をたなびかせ、僕達を通り抜けていく。
「瀬神君。….いや、アツェ君。私は、君の事を絶対に諦めない。何年かかっても、どんな事があっても。」
彼女の瞳が、覚悟を示すかのように力強くなる。
「だから、きっと待っていてね。私が、君を夢中にさせる、その瞬間を。約束、だからね。」
そう言って、彼女は遥か彼方へ駆けていった。
僕の心に、深い傷跡を残して。
あれから、何年たっただろう。
彼女の事は、まだ忘れていない。忘れられる訳がない。僕の青春をすべて持っていった彼女の事を。
僕は社会人となり、毎日毎日机と向かい合い、生徒に教科を教え、職場の人間関係から逃げ、何の望みもなく、ただ生きている。
彼女は、元気だろうか。本当に僕の前にまた現れるのだろうか。
それだけを想い、毎日を過ごしている。