ポチです
異世界恋愛ジャンルに入れて良いものか、かなり悩んだブツです。
犬視点なので、登場人物の説明はとても雑。
人間は二人出てきますが、犬からすれば「なんかキラキラしてる」とかで容姿説明が終わる程度なので、その辺を省いております。 ご了承下さい。
ポチです。
ボクと大きさがあまり変わらないメスの飼い主から、そう呼ばれています。
犬です。
飼い主から、お前は犬って種類だと言われたのです。
オスです。
それほど強く求めてないけど、現在お嫁さんを募集中です。
ふわふわな毛並みが自慢です。
飼い主から毛繕いしてもらう度に、いつまでもさわっていたいと言われる位です。
ボクの飼い主はとても大きい塒を縄張りにしている。
ボクの体よりすごく大きくて、大きな群れでも全員入れちゃうんじゃないかな?
そのそばにボクの塒を用意してくれて、そこにボクはいる。
ここは小さな草がいっぱい生えていて、寝っ転がると気持ちいい。
暑い日には木の影へ逃げ込んで、寒い日には暖かいところを探してウロウロ。
ごはんは探す必要がなくて、持ってきてくれるからとてもらくちん。
おいしい水が出るものも置いてってくれてるし、今の暮らしに不満なんてないね。
ここが塒になって、どれくらいかなぁ。
寒い時が何回来ただろう。 1……2……3……分かんないや、とにかくたくさん!
今は暑い日が続いてるけど、飼い主と一緒に歩いたり毛繕いしてもらったりで幸せな毎日。
思わずしっぽがブンブン動いちゃうね!
………………ところで飼い主? 時々一緒にくる、ボクを見て怯えてるオスは何ですか?
飼い主の番ですか?
なんか生っ白くてヒョロヒョロなオスだけど、それで飼い主を守ってくれるの? それともボクみたいに火を噴けるとか、なにか特技があるのかな?
~~~~~~
最近は暑さが弱くなって、涼しくなってきた。
それでボクの塒の前で寝そべっていると“ぶらし”って言うのを持って、飼い主が来てくれたのを目の動きだけで確認。
やった! 毛繕いしに来てくれた!
嬉しくなってしっぽを動かしたくなるけど、それはガマン。
飼い主に毛繕いのジャマって言われちゃうからね。
だから寝そべったまま、好きにするが良いさって気持ちを込めて、近寄ってくるのに気付かないふり。
首を3つにして待ってるからね!
ああああぁぁぁ……。
そう、そこ。
おほっ!
あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛……。
気ン持ちいいんじゃああぁぁぁ……。
飼い主の毛繕いはサイコーー!!
かゆい所に手が届く! 毛繕いで気持ちいい場所も全部分かってくれてる!
このためにここで飼われている様なもの。
でも最近はこんな幸せな気分を、悪くしてくれるのが出てくる回数が増えた。
「キミは何度言っても、危ない事を止めてくれないんだね」
やっぱり出たか、このジャマな生っ白いオスめ。
飼い主の番にはふさわしくない、まずその体を大きくしてこい。
威嚇と警戒の気持ちを込めて、頭を起こしてオスを見る。
やっぱり怯えた。 弱っちいやつ。
「危なくないわ。 こんなにおとなしくて可愛い子は、そうそう居ないわよ」
「どこがだよ。 こいつが今、俺を威圧したぞ?」
「こいつじゃないわ。 ポチよ」
はい、ポチです。
この飼い主から、そう呼ばれています。
「なんでポチなんて犬みたいな名前なのか! こいつはどう見ても、危険な魔物の代表格である3つ首の化け物ケルベロスだろ!?」
「いいえ、可愛い可愛い犬よ!」
犬です。
飼い主から、お前は犬って種類だと言われたのです。
「普通の犬がこんなに大きいものか! 俺はこんな恐ろしい魔物と暮らしたくないんだっ!」
「だから恐ろしくないわ! こんなに従順で可愛いペットは、そういないわよ!」
「大きいって所は否定しないんだな!」
「この大きさが良いんじゃない!」
……お? 飼い主とオスがなんだか威嚇しあってる?
もしかしてこいつ、飼い主の縄張りを奪おうとちょっかいをかけてる、敵だったりする?
「どこがだよ! こんなのにのし掛かられた時点で押し潰されて、怪我をしてしまうだろうが!」
「怪我なんてしないわよ! むしろ冬にこっちからのし掛かって、モフモフぬくぬくするのが幸せなのよっ!」
飼い主、敵だったら容赦しちゃダメだよ?
2頭で何を言ってるのか分からないけど、押し倒そう。
それで動けなくして、噛みつこう。
喉笛を噛み千切れば勝ちだ。
「キミはそんな恐いことをしているのかい!?」
「恐くないと何度言えば分かるのよ! 冬の楽しみのひとつよ!?」
「キミにケルベロスは化け物って認識は無いのか!?」
「ポチは可愛いペット! もうすぐあなたと婚姻するのだから、この可愛さを知って欲しいのよ!!」
「俺はリスク管理の話をしている!」
「こっちは、ポチが可愛いと言っているの!」
…………ん?
戦いに全然ならないや。
これはもしかして、無駄吠えってやつかな?
つまりこのオスは悪くない。
敵じゃなくて、やっぱり飼い主の番?
だったら放っておこう。 必要もなく戦うなんて馬鹿げてるもん。
はー、寝てる格好で頭を3つとも持ち上げるのは疲れる。 ぐで~。 あー、この体勢はやっぱり楽だー。
「このケルベロスが誰かを軽く引っ掻いてみろ! それだけで死人が出る!」
「いつも甘えてきてくれて、毛繕いしてやれば幸せそうにしてくれる。 そんなポチが危険な訳はないわっ!」
「いつもはそれでいい! そのいつもが来なかった場合の話をだな!!」
「小さい頃から一緒に暮らして、いつもが来なかった日は無いの! 見なさいよ、あなたが敵じゃないと分かって無防備になった、この可愛い姿をっ!」
「過去の話じゃない! 未来にどうなるかって話だ!」
「あなたはいつもそう! 危ないから怪我するから失敗したら、もしもしもしもしもしって!! なんでもかんでもダメダメダメダメ! うんざりなのよっ!!」
「キミが大切だからそう言っているんだ! 分かってくれ!!」
「分かってないのはアンタよ、この唐変木ぅ!!」
「なんだと!? 俺がいつもキミを想ってしているのに、なぜそんな酷い言い方を!!」
「ほらぁいつもそう! この間だってねえ――――」
おやすみ~。 全部おわったら、また毛繕いしてね~。
恋愛ジャンルに入れた理由はお分かり頂けたでしょうか?
夫婦喧嘩は犬も食わぬ。
それを表す為に、こうしたかっただけ。
あ、補足です。
現実にも人間サイズ……下手したらそれより大きい犬種も存在します。
でもそれだとそこまで夫婦喧嘩(痴話喧嘩?)の種になりそうも無いから、わざわざファンタジー世界にしてみました。