耳に届かない婚約破棄
いせかーい異世界のことでした。
あるところに、それはそれはとても仲の良い王子様とお姫様が住んでおりました。
それはある日の事でした……
「姫様やぁ!」
王子様は腰を曲げながらお姫様に近付き、耳元で叫びます。
「あのよぉ! 儂と、婚約破棄してくれねぇか!?」
「あんだってぇ!?」
婚約破棄を突き付けられたお姫様。聞こえてない振りをしているのか、耳元に手を当て、王子様が何と言ったのか聞き返します。
「儂とぉ! 婚約破棄してくれねぇかぁ!?」
「あああんだっっってえええ!!!???」
再度、婚約破棄を突き付ける王子様。しかし、お姫様は目の前の真実を受け入れたくないのか、またも、聞こえない振りをします。
「んだからよぉ!? 儂と婚約破棄してくんろって言ってんだべさ!?」
諦めず、婚約破棄を突き付ける王子様。ですが次の瞬間、お姫様は驚愕の事実を口にします。
「なあにばかこいでんだぁ! 儂らこの前天寿を全うしたばっかでねえか!! いまさら婚約破棄もねえべさぁ!!」
「ありゃあ!? んだったかあ!?」
そうなのです。102歳で天寿を全うしたふたりは、いま黄泉の国にいるのでした。
「ところでよお? ばあさまや。今、儂らの目の前にあるこの大きな釜はなんだべや? 中ですごいグツグツいってんけども」
「なんだぁ、じいさまや。こんなのもわかんねぇのかや? これは、どっからどう見ても大浴場にきまってんべや!」
そのふたりの会話を近くにいた大男が耳にし、こう呟きました。
「いや……釜茹での刑なんですけど……」
――おしまい――
…………えー、102歳なら王子様じゃないじゃんとか、異世界なのに黄泉の国? などの突っ込みは無しの方向でお願いします。